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留菜マナ
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第三百三十話 芳香のつむじ風⑤

公開日時: 2022年2月25日(金) 16:30
文字数:2,238

「有、これからどうするんだ?」

「有、これからどうするの?」

「望よ、まずはペンギン男爵が営んでいるアイテムショップに行くつもりだ。転送アイテムは今回、『アルティメット・ハーヴェスト』が準備してくれたからな」


望とリノアの疑問に、インターフェースを操作していた有は訥々と答えた。

転送アイテムは、お店では高額で取り引きされている。

有はそれより安く見積れるようにと、これまで必要な素材を購入して、新たに転送アイテムを生成していた。

だが、転送アイテム自体も高いが、転送アイテムを生成するための素材も高い。

なおかつ、五大都市まで赴かなくては転送アイテムの素材が全て揃うことはない。

『アルティメット・ハーヴェスト』が多くの転送アイテムを用意してくれたことで、その負担も軽減されていた。


「この街で準備を整えることにしたんだな」

「この街で準備を整えることにしたんだね」

「まあ、その方が確実だろうな」


湖畔の街、マスカットのアイテムショップに赴く真意に触れて、望とリノア、そして奏良は納得したように頷いてみせる。


「よし、まずはアイテムショップに行くぞ!」

「うん!」


有の決意表明に、跳び跳ねた花音が嬉しそうに言う。

望達は有の母親にギルドを託して、ペンギン男爵が営んでいるアイテムショップへと足を運ぶ。


「いらっしゃいませ。わたくしは、ナビゲーター兼この店のオーナーのペンギン男爵と申します。お客様のサポートを務めさせて頂きます」


店内に入った花音達を出迎えるように、目の前にペンギン男爵が現れた。

赤いリボンを付けていること以外は通常のペンギンの風貌と変わらない、スポットナビゲーターでもあるペンギン男爵はぺこりと頭を下げる。

『創世のアクリア』のプロトタイプ版では、スポットナビゲーターとしての役目を果たせないため、ショップ経営を兼業していた。


「ペンギン男爵さん、今日も可愛いね」

「どうも」


花音が歓声を上げると、ペンギン男爵は照れたように頬を撫でる。

棚には、幾つものアイテムが並べられていた。

回復アイテム、状態異常の回復アイテム、モンスター避けのお香などの必需品から、ぬいぐるみやギルド専用のアイテム収集鞄もある。


「ペンギン男爵よ。あれから椎音紘、もしくは『アルティメット・ハーヴェスト』の訪問があったのか知りたい」

「この街ーー湖畔の街、マスカットは、『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄下になっております。そのため、定期的に『アルティメット・ハーヴェスト』の方々の警備巡回が行われています。マスターである椎音紘様の来訪は、わたくしの把握している範囲内でしたらございません」


有の疑問に、ペンギン男爵は訥々と説明した。

ペンギン男爵の報告を聞いて、有は早速、インターフェースを使い、湖畔の街、マスカットの情報を確認する。

そこには、街の警備に関する当たり障りのない情報が記載されていた。

有は前に進み出ると、不穏な空気を吹き飛ばすように口火を切った。


「ペンギン男爵よ。これから『アルティメット・ハーヴェスト』と協力を得て、複数のダンジョンの同時調査を行うことになる。人数分の回復アイテム、状態異常の回復アイテム、モンスター避けのお香を購入させてほしい」

「かしこまりました」


有の要望に、ペンギン男爵は丁重に答える。

ペンギン男爵は軽い調子で指を横に振り、棚に並べられた回復アイテムなどを、有達の目の前に顕現させた。


「全てを合わせて、ニ千ポイントになります」

「今回でダンジョン調査クエストを達成して、ポイントを得る必要がありそうだな」


ペンギン男爵の指示の下、有は指を横にかざし、視界に浮かんだポイントアプリを、指で触れて表示させる。

そして、目の前に可視化した累計ポイントを確認すると、支払いの項目を選び、ポイントを支払う。


「ありがとうございます。では、こちらの購入でよろしいでしょうか?」

「ああ」


ペンギン男爵の再確認に、アプリ表示を消した有は承諾した。

有が回復アイテムなどを受け取ると、花音は興味津々な様子で有へと視線を向けた。


「お兄ちゃん。買い物は、これだけで大丈夫かな?」

「妹よ、問題ないぞ」


花音はペンギン男爵のもとへ駆け寄ると、悪戯っぽく目を細める。


「ペンギン男爵さん、また来るね」

「ありがとうございます」


花音が喜色満面で言うと、ペンギン男爵は恭しく礼をする。

有達は店の外に出ると早速、街の外へと向かう。


「ねえ、徹くんが召喚した光龍に乗って飛んでいったら、複数のダンジョンの同時調査をあっという間に行えるんじゃないかな?」

「……ふん」


花音が率直な疑問を述べると、奏良は不満そうに目を逸らした。


「それで何とかなるのなら、苦労していない。ダンジョンに向かうのに、光龍で飛翔していくのは愚策だろう。目立つ上に、『レギオン』と『カーラ』に頭上から迎撃されては元も子もない」

「もう、奏良くん! 愛梨ちゃんのために、ダンジョン調査、頑張ろうよ!」

「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」


花音のどこか確かめるような物言いに、奏良は不快そうに顔を歪める。


「よし、では行くぞ! 王都『アルティス』へ!」

「うん!」


有の決意表明に、跳び跳ねた花音が嬉しそうに言う。


向かうは、『アルティメット・ハーヴェスト』の拠点。

五大都市の一つ、王都『アルティス』。

先陣を黄昏の翼ーー『アルティメット・ハーヴェスト』が管理するNPCの少女、イリスが望達を追って駆け抜ける。

それは、やがて祝福の調べとなり、望達の意識を同調せしめるものとなっていった。

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