がらんとして広い中央通りを、辻馬車がカラカラと音を立てて進んでいる。
キャリッジは上等な布張りの椅子で、車窓はガラス製だ。
NPCの御者に、天蓋には房(ふさ)飾りがちりばめられている立派な威風の馬車である。
「よし、妹よ、行くぞ! 『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームへ!」
「うん。お兄ちゃん、先手必勝だね!」
有と花音は熱い意気込みを語りながら、車窓から街の風景を眺めている。
「ギルドホームには、愛梨ちゃんのお兄さんが待っているのかな」
「恐らく、そうだろう」
「……『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームか」
有と花音が熱い議論を交わす中、望は顎に手を当てて深く大きなため息をつく。
やがて、馬車は、街を警護する『アルティメット・ハーヴェスト』のプレイヤー達の厳戒態勢が引かれている隊列を過ぎ去った。
「お兄ちゃん。まるで私達、特別扱いだね」
「そうだな、妹よ」
「有、花音。ここは、馬車の中だ。少し場所をわきまえてくれ」
有と花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたように視線を周囲に飛ばす。
望達が乗る馬車は、既に人々の注目の的になっていた。
「馬車の無償貸し出しと厳正な検問、高位ギルドは相変わらず、すごいな」
望は感慨深げに周囲を見渡しながらつぶやいた。
望の目の前には、警備が牽かれた厳格な門と美しき白亜の塔が見渡せる。
数人のプレイヤー達が立ち塞がっている門の前で、望達が乗っている馬車は一旦、止まった。
「身分証」
「ああ」
検問のプレイヤーの要求に、有は胸元に挟んでいるギルドマスターの証である銀色のラペルピンを取り外して渡した。
ラペルピンが光り、有達のギルド『キャスケット』の情報が映し出されたインターフェースホログラフィーが表示される。
「名前は」
それは今、映し出されているホログラフィーに表示されているのだが、有は形式に従い、答える。
「『キャスケット』のギルドマスター、西村有だ」
「紘様から、話は聞いている。通っていいぞ」
検問のプレイヤーは有達を一瞥して、ラペルピンを返した。
「では、出発します」
NPCの御者の手引きにより、馬車が再び、動き始める。
望達が乗る馬車は検問の門を通り抜け、目的の場所である『アルティメット・ハーヴェスト』のギルド前にたどり着いた。
「『アルティメット・ハーヴェスト』のギルド、やっぱり壮大だな」
「愛梨ちゃんが所属するギルドのホーム、すごーい!」
馬車から降り、手をかざして見上げた望の言葉に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。
望達が紘達に会うために訪れたギルドホームは、まさに壮麗な白亜の塔だった。
城と呼ぶに似つかわしい規模の塔であり、豪華絢爛のような美しさを備えている。
「望くん、徹くん、勇太くん、リノアちゃん! 早く早くー!」
「ああ」
望とリノアが駆け寄ると、花音は悪戯っぽく目を細める。
奏良と今後のことで話し合っていた有が、インターフェースで表示した王都、『アルティス』のマップを見据えた。
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