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留菜マナ
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第百六十三話 仮想は偽りを隠す⑧

公開日時: 2021年2月28日(日) 16:30
文字数:1,101

「相変わらず、すごい人だな」


冒険者ギルドへと向かった望達は、『アルティメット・ハーヴェスト』のプレイヤー達がいる通りに沿って歩いていた。

この街を警護する『アルティメット・ハーヴェスト』のプレイヤー達の厳戒態勢が引かれている場所なら、望の特殊スキルを狙う襲撃者達にすぐに対応できると判断したからだ。

先頭を歩いていた花音は興味津々な様子で、街中へと視線を走らせた。


「お兄ちゃん、望くん、奏良くん、プラネットちゃん! 早く早くー!」

「ああ」


望が駆け寄ると、花音は悪戯っぽく目を細める。

奏良と今後のことで話し合っていた有が、インターフェースで表示した王都『アルティス』のマップを見つめて言った。


「新しいマップによると、王都『アルティス』も少し様変わりしているようだ」


有はマップを消し、改めて周囲に視線を巡らせる。


「ねえ、お兄ちゃん。これから、勇太くん達が待っている冒険者ギルドに赴くんだよね?」

「その通りだ、妹よ。まずは柏原勇太達が、俺達のギルドに入るのか、確かめる必要があるからな」


花音の疑問に、有は少し逡巡してから答えた。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「勇太くん達、『キャスケット』に入るかもしれないんだね?」

「まだ、確証はないがな」


花音が興味津々の表情で尋ねると、有はきっぱりと答える。

やがて、中央の大通りを馬車が進んでいく姿を見留めると、花音はずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せた。


「他の五大都市は今、どうなっているのかな?」

「新たなマップでは、こちらも様変わりしているようだな」


花音が戸惑ったように訊くと、有は意味ありげに表情を緩ませた。


「他の都市か。いつか赴くことができるといいんだけどな」


インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望は顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。

望達は早速、冒険者ギルドに立ち寄り、勇太達を探すことにした。

クエストを受注したり、馬車を手配するためには、基本、自身のギルドか、冒険者ギルドで行う必要がある。


「望、妹よ。今回のダンジョンの調査クエストを達成すれば、他の五大都市へと赴く足掛かりになるはずだ」

「ああ」

「うん」


有が事実を如実に語ると、望と花音は納得したように首肯する。

冒険者ギルド内で見かけるのは、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達と、NPCであるギルドの受付達の姿だけだった。

しかし、信也のような『レギオン』と『カーラ』に通じた来訪者が現れないとは限らない。


「よし、望、奏良、プラネット、妹よ。『レギオン』と『カーラ』の者達に遭遇する前に、柏原勇太達を探すぞ」

「うん」


花音は周囲を警戒してから、勇ましく点頭した。

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