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留菜マナ
留菜マナ

第五十九話 天空の回廊④

公開日時: 2020年12月1日(火) 07:00
文字数:1,261

その瞬間、彼は特殊スキルを使えるようになった。


『創世のアクリア』にログインしたことによって、特殊スキルを会得した紘は、自らが使えるようになった未知の力をすぐに理解した。


曖昧だった結果に与えられる具体的な事象。

違和感を感じることに、違和感があるようなメタ構造を持った理念。

不可解で不自然な現象。


それらは全て、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされたものだった。

その不可解な力を仮想世界で得た紘は、すぐに現実世界でも利用することにした。


「この力を使えば、世界の真理にたどり着けるかもしれない」


その行動理念の赴くまま、紘はあらゆる領域に一方的に干渉していった。

過去、現在、未来、全てを見据えた上で、未来へと導いていく力。

紘はその便利な力を使い、途方もない量の情報を手に入れ、処理する。

自身が想い描いた未来の中で、ひときわ鮮明に輝く未来だけを選択して世界を改変していった。


特殊スキル。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。

全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。


その言葉どおり、紘は仮想世界だけではなく、現実世界でも神のごとき振る舞いをほしいままにした。

だが、当時の紘は、自身が手に入れた未知の力を解明することに夢中で、愛梨に迫っていた未来に目を向けていなかった。


半年前ーー。

愛梨が死んだのは、愛梨の両親の離婚が原因だった。

だからこそ、半年前のあの出来事を、紘はいつまでも忘れられない。

徹が呼ばれ、紘が待ち望んでいた愛梨の誕生日は、悔やんでも悔やみきれない日になってしまった。

あの時、両親の離婚を止めることが出来ていたらーー。

この力をもっと早く使いこなして、愛梨を守ることが出来ていたらーー。

愛梨は、両親の言い争いに巻き込まれて死ぬことはなかったかもしれない。


否応なしに思い出す半年前の苦い記憶を振り切って、紘は最上階にあるギルドマスターの部屋に向かう。


愛梨の死をなかったことにするには、私の特殊スキルだけでは叶わなかった。

だが、蜜風望の魂分配(ソウル・シェア)のスキルを用いたことで、それを実現することができたーー。


紘が部屋に入り、デスクに座ると、幾つものインターフェースホログラフィーが目の前に表示された。

紘の下には望達に限らず、逐一情報が入ってくる。

それらを選別し、必要な情報のみを収集している途中で、徹から連絡が入った。


『紘。『レギオン』側に動きがあった。紘が告げたとおり、愛梨と美羅のシンクロを狙ってきたみたいだな』

「徹。予定どおり、『カーラ』のギルドマスターを妨害してほしい。そうすれば、『レギオン』の企みは無に帰することになる」

『分かった』


紘は通信を切り、神妙な面持ちでホログラフィーを眺める。


「特殊スキルの力に目を付けて、私欲のために利用しようとしている連中がいる」


激情と悲哀、様々な感情が渦巻く無窮の瞳で、紘は選び取った未来を垣間見た。


「なら、私はこの力を用いて、愛梨が幸せになれる未来を選んでいくだけだ」


それは、紘が徹に語っていた夢を芽吹かせた瞬間でもあった。

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