「望、妹よ。機械都市『グランティア』に赴くことができれば、美羅を消滅させる方法の足掛かりを掴むことができるはずだ」
「ああ、そうだな」
「うん」
有が事実を如実に語ると、望と花音は納得したように首肯する。
「絶対にリノアを救ってみせる!」
「勇太くん……」
勇太の決意に目を見張り、息を呑んだ望はこの場であの疑問を信也に投げかけることを決断した。
「プラネット、『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンマップを表示してくれないか」
「はい。マスター、こちらをご覧下さい」
望の指示に、プラネットは恭しく礼をする。
そして、軽い調子で指を横に振り、望達の目の前に『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンマップを可視化させた。
望の視線が向かう先は、このダンジョンで信也が作戦の指揮を執っていた場所である。
あの、見覚えのない部屋に吉乃信也がいたのは確かだ。
望は改めて、あの時の出来事を考察していく。
『吉乃信也は当初、『レギオン』のギルドホームに居ると言っていた。だけど、実際は『サンクチュアリの天空牢』で待ち構えていたからな』
あの時、徹が発した言葉が望の脳裏に蘇る。
有達と分断させられた時、信也は『レギオン』のギルドホームにいると嘯(うそぶ)いて、巧妙にダンジョン内に罠を仕掛けていた。
なら、吉乃かなめはあの時、どこにいたんだ……?
そうーー『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンの作戦の指揮を執っていたのは信也とかなめの兄妹だ。
偶然にしては明らかに出来すぎている。
吉乃信也と吉乃かなめ達に待ち伏せされたのは最深部の牢獄だ。
『カーラ』が喚んだモンスター、ベヒーモスの大群によって牢獄まで誘導させられたからな。
望はそれまでのかなめの動向に疑問を覚える。
なら、俺達が最深部の牢獄に行くまで、吉乃かなめはあの場でずっと待ち構えていたのか?
……それとも別の場所にいたのか?
次々と疑問が浮かぶものの、思考が纏まらない。
望が顔を片手で覆い、深いため息を吐くと、状況の苛烈さに参ってきた神経を奮い立たせる。
「どういうことなんだーー」
「望、惑わされるなよ!」
疑念の渦に沈みそうになっていた望の意識を掬い上げたのは、信也と向かい合っていた徹の声だった。
「密風望」
その意思に呼応するように、紘が望を導くように名を呼んだ。
「吉乃信也達が持っている明晰夢の力は、本来の明晰夢とは異なる力だ。彼らが見ている明晰夢を、現実で起きていることだと錯覚させ、世界の状況を一時的に彼らの思いどおりに変化させられる力だ」
そう前置きして、紘から語られたのは望達の想像を絶する内容だった。
「吉乃かなめはあの時、最深部の牢獄で待ち構えていた。君達があの場所に訪れることを知っていたからだ。『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンを生成したのは、吉乃信也と吉乃かなめの明晰夢の力によるものだ」
「なっ!」
紘の感情のこもった言葉。
だけど、ただ事実を紡いだ言葉に、望は驚愕の表情を刻む。
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