「あの子は誰だ?」
「あの子は誰?」
望とリノアは警戒を緩めることなく、周辺をくまなく探っていく。
「お兄ちゃん。あの子がこの部屋の秘密を解くための鍵なのかな?」
「妹よ、すまない。判断がつかないとしか言いようがない」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
「だが、少なくともここにいるということは、『レギオン』と『カーラ』の関係者なのは間違いないだろう」
「そうなんだね……」
有の推測に、花音は目の前に佇む少女をじっと見つめた。
少女はこちらに気づいていないのか、花畑の中で微笑んでいる。
そこで花音はふと気づいた。
「あの子、愛梨ちゃんに似ている」
「「確かに」」
もっともな花音の疑問に、望とリノアも同意する。
朧気に揺らめく儚げな少女を見つめながら、望は改めて、今までの出来事を呼び起こす。
愛梨を取り巻く悲しみに暮れた儚き過去。
それはそう遠い時ではない筈なのに、もうずっと昔のことのようで。
手を伸ばしても届かない程に、明るい未来の光だけが彼女の心を照らしているような気がする。
腰まで伸びた透き通るようなストロベリーブロンドの髪。
病的なまでに白い肌。
穢れなき白を基調したドレスは、愛らしいフリルと金糸の刺繍で上品に彩られている。
まるで物語の中の眠り姫のような出で立ちに、一目で人を惹き付けるほどの美貌。
今も愛梨のことを考えていると、まるで意識が吸い込まれそうになる。
初めて愛梨と出逢ったときのような衝撃は――時間をかけ、経験を積み重ねて変化し、胸を苦しくさせるほど、強いものへと変わっていた。
彼女は何者なんだろうか?
目の前の少女の存在に、望はシンパシーを感じる。
愛梨に似ている少女。
特殊スキルの使い手である愛梨をもとにした『データの残滓である美羅』。
望は目の前の少女の雰囲気が、どこか美羅に似ているような気がしていた。
「奏良くんはどう思う?」
「僕も分からないな。有の言うとおり、『レギオン』と『カーラ』の関係者かもしれない。でも、人のデータはここにいる僕達のようにデジタルで再現できてしまう。だから、彼女はただの『データ』という見方もできる」
「あの子がデータ……?」
奏良の確信に近い推察に、花音は感想をそのまま口に出した。
「妹よ。ここは『創世のアクリア』のプロトタイプ版だ。街やフィールドを見て分かるとおり、オリジナル版のもとになっている」
「お兄ちゃん。それって、あの子はNPCってこと?」
有の説明に、花音はぽかんと口を開いた。
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