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留菜マナ
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第四百八十四話 夏の風に揺れる⑦

公開日時: 2024年6月3日(月) 16:30
文字数:1,011

「あの子は誰だ?」

「あの子は誰?」


望とリノアは警戒を緩めることなく、周辺をくまなく探っていく。


「お兄ちゃん。あの子がこの部屋の秘密を解くための鍵なのかな?」

「妹よ、すまない。判断がつかないとしか言いようがない」


花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。


「だが、少なくともここにいるということは、『レギオン』と『カーラ』の関係者なのは間違いないだろう」

「そうなんだね……」


有の推測に、花音は目の前に佇む少女をじっと見つめた。

少女はこちらに気づいていないのか、花畑の中で微笑んでいる。

そこで花音はふと気づいた。


「あの子、愛梨ちゃんに似ている」

「「確かに」」


もっともな花音の疑問に、望とリノアも同意する。

朧気に揺らめく儚げな少女を見つめながら、望は改めて、今までの出来事を呼び起こす。


愛梨を取り巻く悲しみに暮れた儚き過去。

それはそう遠い時ではない筈なのに、もうずっと昔のことのようで。

手を伸ばしても届かない程に、明るい未来の光だけが彼女の心を照らしているような気がする。


腰まで伸びた透き通るようなストロベリーブロンドの髪。

病的なまでに白い肌。

穢れなき白を基調したドレスは、愛らしいフリルと金糸の刺繍で上品に彩られている。

まるで物語の中の眠り姫のような出で立ちに、一目で人を惹き付けるほどの美貌。

今も愛梨のことを考えていると、まるで意識が吸い込まれそうになる。

初めて愛梨と出逢ったときのような衝撃は――時間をかけ、経験を積み重ねて変化し、胸を苦しくさせるほど、強いものへと変わっていた。


彼女は何者なんだろうか?


目の前の少女の存在に、望はシンパシーを感じる。

愛梨に似ている少女。

特殊スキルの使い手である愛梨をもとにした『データの残滓である美羅』。


望は目の前の少女の雰囲気が、どこか美羅に似ているような気がしていた。


「奏良くんはどう思う?」

「僕も分からないな。有の言うとおり、『レギオン』と『カーラ』の関係者かもしれない。でも、人のデータはここにいる僕達のようにデジタルで再現できてしまう。だから、彼女はただの『データ』という見方もできる」

「あの子がデータ……?」


奏良の確信に近い推察に、花音は感想をそのまま口に出した。


「妹よ。ここは『創世のアクリア』のプロトタイプ版だ。街やフィールドを見て分かるとおり、オリジナル版のもとになっている」

「お兄ちゃん。それって、あの子はNPCってこと?」


有の説明に、花音はぽかんと口を開いた。

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