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留菜マナ
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第三百ニ話 夢の宿り木①

公開日時: 2021年8月6日(金) 16:30
文字数:1,289

「なら、これでどうだ! 『エアリアル・ライカ!』」


奏良は、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』で覚えたスキルを披露する。

奏良が放った無数の風の渦が、高速光線となって、縦横無尽に軌跡を描く。

予測できないランダム軌道の疾風に、『レギオン』のギルドメンバー達は虚を突かれた。


「よし、今のうちに行くぞ!」


奏良が渾身の力を込めた、風の魔術のスキル。

それは勝機へと繋がる。

有達は活路を切り開くために、混乱する『レギオン』のギルドメンバー達の只中を駆け抜けていった。


「マスター達を渡すわけにはいきません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、渾身の力を込めた両拳を賢に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。


「行くぜ!」


プラネットの首尾を信じて、勇太は賢の間合いに向かう。

だが、晴れた煙幕の向こうで展開していた光景は、望達の想像を超えていた。

賢は自身の剣を用いて、プラネットの両拳を受け止めていたのである。


「その程度では、私は止められない!」

「ーーっ」


賢は作業じみた眼差しを向けると、プラネットを後方に吹き飛ばす。

そして、迫ってきた勇太の剣戟さえもいともあっさりと捌いた。


「くっ……」


勇太は必死にとんぼを切って、何とか賢の次撃の攻撃範囲から離脱する。


「「今だ!」」


望とリノアはかなめ達の包囲をすり抜けて、勇太の加勢に行こうとした。

しかし、それを阻害するように、かなめと『レギオン』のギルドメンバー達は、望とリノアの動きを阻むように立ち回る。


「とにかく、愛梨も紘も、そして望とリノアも、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」


そこに光龍を使役した徹が、かなめの前に立ち塞がった。

後続から突出した『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達は、徹に続く形で『レギオン』のギルドメンバー達の動きの妨害に回る。


「「勇太くん」」


徹達がかなめ達の対処に回ったことで、望とリノアの視界はようやく開けた。

跳躍した望とリノアは長き戦いを決着へと導くために、勇太のもとに駆け寄り、声を掛ける。


「力を貸してくれないか」

「力を貸してほしいの」

「何か、手があるのか?」


望とリノアの言葉に反応して、勇太がとらえどころのない空気を固形化させる疑問を口にした。


「俺達で、手嶋賢を食い止める。だが、恐らく、『星詠みの剣』を持つ手嶋賢を倒すことはできないと思う。この状況を打破するには、吉乃かなめを何とかするしかないと思うんだ」

「私達で、手嶋賢を食い止める。だが、恐らく、『星詠みの剣』を持つ手嶋賢を倒すことはできないと思うの。この状況を打破するには、吉乃かなめを何とかするしかないと思うの」

「分かった。俺は吉乃かなめの対処に回るな」


勇太は今までの情報を照らし合わせて、状況を掴もうとする。


「リノア。今度こそ、絶対に護るからな……」


勇太は望とリノアの想いに応えたくて、誓いの言葉を口にする。

それは彼が、これまで歩んできた道のりの末に手に入れた強さのように思えた。


『創世のアクリア』という仮想世界ーー。


その場所で積み上げた強さとともに、望達は世界の変革を目論んだ賢達、『レギオン』に立ち向かう意志を示す。

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