「紘、『レギオン』と『カーラ』の者達が接触してくるのはいつ頃なのか分からないのか?」
「私の力も完璧ではない。同じ特殊スキルの使い手の力が働けば、その情報を覆されてしまうこともある」
徹の懸念に、紘は携帯端末のメッセージを確認しながら淡々と返す。
いつもなら愛梨のことは途中で小鳥に任せる予定だった。
だが、紘は自身の特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』によって、『何も手を打たなくては』彼らが愛梨に接触してくることを事前に織(し)り得ている。
そのため、紘達は中学校まで愛梨を送り届けてから高校に向かうことにしていた。
紘達は街の雑踏をかき分けて、愛梨が通う中学校へと足を運ぶ。
やがて、密集するように家が立ち並ぶ住宅街から、次第に桜の木と欄干に挟まれた遊歩道の道筋が広がる長閑な景色へと移り変わる。
木々生い茂る噴水広場の周りを、魚達の群れがゆったりと泳いでいた。
いつもと変わらぬ穏やかな風景。
しかし、周囲の様子は明らかに平常とは異なっていた。
「美羅様……」
通勤途中でサラリーマン風の男性は目を閉じ、手を合わせた。
周りの人々も、美羅に対して訥々と祈り始める。
「怖い……」
紘の背後に隠れていた愛梨は、その異常な光景に怯えるようにして俯いていた。
不安そうに揺れる瞳は儚げで、震えを抑えるように胸に手を添える姿はいじらしかった。
望ならまず見せない気弱な姿に、紘は優しく微笑んだ。
「愛梨、心配することはない。私達がそばにいる。愛梨に危害を加える者達は近づけさせない」
「帰りも、一緒についていてやるからな」
「うん……」
紘と徹は肩を震わせる愛梨を気遣って、一緒に並んで歩いていく。
「今日は何か起きるかもしれないし、帰りはまっすぐに帰ろうな」
「うん。怖くて苦しくて心細いけれど、それでも頑張る……」
徹の呼び掛けに、愛梨は不安定な声色で応えた。
愛梨は必死に言葉を形にするように掠れた声で続ける。
「私がずっと怯えていたら……望くん達に申し訳ないから」
愛梨がなけなしの勇気を振り絞っているのはどう見ても明らかだった。その声音は弱々しくあまりにも脆い。
「そうだな。何かあったら、すぐに携帯端末で知らせろよ。すぐに駆けつけるからな」
「……ありがとう」
徹の気遣いに、愛梨は花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべた。
「大丈夫だ。愛梨のことは、先生やクラスメイト達に『絶対に守り抜くように頼んでいる』。そして徹、岩波奏良と張り合うな」
「……うん」
「何で、あいつと張り合うこと前提なんだ!?」
紘が発した未来を見据えた意見に、愛梨が小さく頷き、徹は不満そうに言い返した。
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