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留菜マナ
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第四百十話 彼女を戻すためのその代償⑤

公開日時: 2023年9月8日(金) 16:30
文字数:1,198

「ニコットが機械都市『グランティア』に留まっているのは、吉乃信也に指示された可能性が高いな」


ニコットが機械都市『グランティア』にいる事情を察して、徹は深刻な面持ちで告げる。


「吉乃信也から情報を聞き出す手段。いろいろと試してみるしかないよな」


信也から情報を得るのは容易ではない。

だからこそ、徹は敢えてそう結論づけた。

そんな光景を背景に、勇太は望へと視線を向ける。


「リノアの意識が戻る前に望に戻ったんだな」


望達のやり取りに触れて、勇太は想いを絞り出すように紡ぐ。


「でも、俺は結局、愛梨さんとはあまり話すことができなかったな……」


リノアが意識を取り戻せば、美羅の力は再び発動してしまう。

とはいえ、勇太は愛梨と会話をする機会を逸脱したことを悔やむ。


特殊スキル。

それは、世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力だ。

今回、愛梨と紘の特殊スキルの力を初めて目の当たりにした勇太はその不可思議な力に驚きを隠せずにいた。


そこまで考えて、勇太は自身の思考があらゆる方向に巡りに巡っていることに気づいた。


「特殊スキルか。本当に世界を変革するようなすごい力なんだな」


まるで本当にゲームの世界に囚われてしまったような感触。

不可解な状況を前にして、勇太は思い悩むように表情を曇らせる。


「特殊スキルか……」


その言葉を皮切りに、有は沈着に現状を分析する。

望達はリノアを元に戻せる方法を求めて、『アルティメット・ハーヴェスト』が提示してきたクエストをこなしてきた。

そこで望達は幾度となく『レギオン』と『カーラ』と対峙してきた。まるで鉢合わせすることが定められていたように何度も先回りされている。


それは何故かーーそう思考を深めた有はふとあることを思い出し、切り出した。


「プラネットよ、ダンジョンの調査依頼について確認したいことがある。調査対象だったダンジョンの中で、プロトタイプ版だけのダンジョンは『サンクチュアリの天空牢』のみだったな?」

「はい。調査対象だったダンジョンの中でプロトタイプ版のみ存在するのは『サンクチュアリの天空牢』になります」


有の鋭い問いに、プラネットは丁重に答える。


「他のダンジョンは、オリジナル版でも存在が確認されています」

「あの時、『サンクチュアリの天空牢』の作戦指揮は吉乃信也と吉乃かなめが執(と)っていたな」


『サンクチュアリの天空牢』。

クエスト内容は、『シャングリ・ラの鍾乳洞』の上空にある、浮き島の牢獄に閉じ込められているNPCの少女を救出するというシンプルなものだった。

だが、クエスト達成条件として記されていたNPCの少女は、どの牢獄にも囚われていない。そして、最深部の牢にたどり着いた時点で、クエスト達成の表示がされるようになっているという事前情報が前もって届いていた。

当初は基本、ペンギン男爵が作成したマップ通りに進んでいけば、牢獄までたどり着くことができるだろうと思われていた。

だがーー

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