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留菜マナ
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第ニ百七十五話 燻る想い⑥

公開日時: 2021年6月20日(日) 16:30
文字数:1,579

『レギオン』の召喚のスキルの使い手達が呼び出したモンスター。


空に浮いたそのモンスターは、見た目だけで言えば烏賊(いか)に似ていた。

巨大な身体に、無数の触手。

モンスターは、危害を加えてきた望達をゆっくりと睥睨する。

まるで、望達を敵と見定め、圧倒的な迫力を直に訴えかけてくるようだ。

圧倒的な能力が厚となって、望達の肌に突き刺さる。


「「はあっ!」」

「行くぜ!」


それでも、気迫と共に繰り出される望達と勇太の攻撃。

賢はそれを見切り、時にはリノアの座標を変え、的確に応戦しつつ分析する。


「プロトタイプ版の開発の要となった信也とかなめが対処しても、椎音紘の特殊スキルの阻止は難しいか……。だが、ダンジョンから出た今、もはや構造の変更は必要ないな」

「「ーーっ」」


その時、曖昧だった思考に与えられる具体的な形。

振り返った望達は、かなめからの報告を受けた賢が意味深な笑みを浮かべているのを見て思わず、身構えた。


「さて、勇太くん、どうする? このまま、私と戦いながら、かなめを相手にするつもりかな?」

「ーーっ」


賢から予想外の選択を迫られた勇太は、苦悶の表情を浮かべる。


リノアの座標の移動を阻止したい。

だが、『カーラ』のギルドマスターの襲来に備えながら、こいつと戦うのは俺一人じゃ厳しいかもしれない。

どうしたらーー


「大丈夫か?」

「大丈夫?」

「ーー望、リノア!」


二律背反に苛まれていた勇太は、駆け寄ってきた望とリノアの声を聞いて我に返った。

勇太は一呼吸置くと、気遣うように言う。


「望とリノアこそ、大丈夫か?」

「あ、ああ」

「う、うん」


リノアに対しての言葉に、望は何と答えたらいいのか分からず、曖昧な返事を返した。

リノアもまた、気まずそうに同じ動作を繰り返す。

それをどう解釈したのか、勇太は噛みしめるように言う。


「望、ごめんな」

「「勇太くん?」」


勇太の突然の謝罪に、望とリノアは不思議そうに首を傾げる。


「今の俺の実力じゃ、こいつらを相手にするのはーー」


勇太は寂しげにそう口を開いた後、迷いを振り払うように首を横に振った。


「……いや、何でもない。こいつらは、俺が何とかする! 望とリノアは、あのモンスターをみんなと一緒に倒してくれないか」

「ああ。俺達で必ず、あのモンスターを倒してみせる」

「うん。私達で必ず、あのモンスターを倒してみせる」


勇太の決意に、望とリノアは躊躇いながらもそれに応える。


「今度こそ、絶対にリノアを救ってみせる!」


勇太は両手で大剣を構えると、賢とかなめに向き合った。

勇太が今、対峙するべきは、迫る眼前の脅威だ。

そして、大切な幼なじみを守るという信念とともに、何事にも恐れない勇気を奮い立たせる。


「行くぜ!」


断定する形で結んだ勇太は、圧倒的な威容を誇る賢に向かって駆けていった。


「そんなに嫌か。自分の弱さを認めるのは」

「ーーっ」


これ以上ないほど、的確に急所を抉(えぐ)る賢の言葉。

勇太は足裏を爆発させ、一足飛びに跳躍する。


『フェイタル・レジェンド!』


勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、賢を襲う。

だが、賢の動きは、勇太の想像とは一線を画していた。


『元素復元、避雷針!』


襲いかかってきた勇太に向かって、賢は剣を振り下ろす。

賢の剣が床に触れた途端、空中にトラップシンボルが現れる。


「くっ……!」


勇太がそれに触れた瞬間、凄まじい爆音とともに吹き飛ばされてしまう。

床の一部も吹き飛んだことで、その直撃を受けた場所には大きな亀裂が入る。

勇太はHPを減らし、スタンの効果によって、しばらく身動きを封じられてしまった。


「勇太くん。これで、君の動きは、しばらく封じることができた。さあ、どうする?」

「ーーっ」


賢の催促に、身動きを封じられた勇太は苦悶の表情を浮かべる。

モンスターと対峙していた望とリノアは、苦戦する勇太の様子を見て次の手を決めかねていた。

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