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留菜マナ
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第ニ百ニ十ニ話 久遠の鳥籠②

公開日時: 2021年4月27日(火) 16:30
文字数:1,656

「喰らえ!」

「ーーっ!」


奏良が放った氷属性の飛礫アイテムが、『カーラ』のギルドメンバー達の動きを阻害した。


「「花音!」」


声に呼応するように、望達をブラインドして近づいていた花音が『カーラ』のギルドメンバー達にとっては死角から現れる。


「行くよ!」


花音の放った氷属性の飛礫アイテムが、意識を望達に集中していた『カーラ』のギルドメンバー達へと叩きつけられた。


「くーーっ」


咄嗟の判断で回避行動を取った『カーラ』のギルドメンバー達は、直後にそれが取り返しのつかないミスであったことに気づいた。


「まーー」

「待つわけないだろう!」


勇太はそう言い捨てると、『カーラ』のギルドメンバー達が避けたことで開いたスペースを望達共々、突っ切っていく。


「特殊スキルの使い手は、ここで確保しろ!」

「かなめ様のもとまで行かせるな!」


『カーラ』のギルドメンバー達を振り切り、ロビーへと向かう望達。

だが、ロビーで待ち構えていた別の『カーラ』のギルドメンバー達が望の存在に気づき、まるで呼び水のように集まってくる。


「わーい! もうすぐ出口だよ!」

「それどころじゃない」

「それどころじゃないよ」


両手を広げて喜ぶ花音をよそに、望とリノアは必死にロビーへと進んでいった。


「ふむ。このままだと挟み撃ちにされるな。やはり、『サンクチュアリの天空牢』から出るためには、『アルティメット・ハーヴェスト』の助力は必須か」


『カーラ』のギルドメンバー達から追いかけられながらも、有は再び、インターフェースを表示させて出口までのルートを再探索していく。


「イリスと連絡をつけるためには、『サンクチュアリの天空牢』から脱出しないといけないな」

「君の精霊が先行して、外にいる『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達に伝令を伝えることは出来ないのか?」


徹の懸念に、銃を構えた奏良は的確に指摘する。


「ああ。精霊だけだとしても、トラップが発動して外には出られないみたいだ」


奏良の剣呑な眼差しに、徹は素っ気なく答えた。

険悪なムードで睨み合いながらも、二人は息のあったコンビネーションで『カーラ』のギルドメンバー達を撃退していく。

これに対して、『カーラ』のギルドメンバー達は、ロビーまでの道への防御を固める。


「よーし、行くよ!」


その布陣を見た花音は、即座に判断した。

花音は裂帛の気合いと同時に、その周囲を固める『カーラ』のギルドメンバー達の元へと動く。

鞭を振るい、疾風の如き速さで距離を詰める。

花音は、ギルドメンバー達に反応させることさえ許さず、先制の一撃を叩き込むことに成功した。

一撃を叩き込むと即座に、囲まれないよう立ち回る。


「ーーっ」


その舞い踊るような花音の連撃に、『カーラ』のギルドメンバー達は躊躇し、翻弄されてしまう。

しかし、花音の防衛をすり抜けて、一部のモンスター達は勇太へと迫った。


「くっーー」


蹂躙ともいえるモンスター達の猛攻。

勇太が振るう剣戟は、ことごとく『カーラ』のギルドメンバー達が呼び出したモンスター達によって弾き返される。


「ま、まだだーー」


勇太は荒い呼吸を無理やり切って、モンスター達の元に向かおうとした。


「勇太くん!」


しかし、そのまま倒れそうになった勇太を、すんでのところでリノアの両親が支える。


「ここから出ないと……」


息も絶え絶えの勇太は、血の気の引いた顔を懸命に奮い立たせた。

その健気さが、リノアの両親の胸を打つ。


『アーク・ライト!』

「……っ!」


リノアの父親は光の魔術を使って、勇太の体力を回復させる。


『お願い、ジズ! 彼に力を与えて!』


それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、勇太の攻撃力を上げた。


「勇太くん。私達も出来る限り早く、トラップを解除していくつもりだ。その間の時間稼ぎを頼みたい」

「リノアを助けたいの」

「おじさん、おばさん、ありがとうな」


リノアの両親の懇願に、勇太は嬉しそうに承諾した。


「行くぜ!」

「ああ」

「ええ」


勇太は大剣を振り上げて、リノアの両親とともに『カーラ』のギルドメンバー達に立ち向かっていった。

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