「なら、徹くんが来るまでの間、あの部屋に行く手段を練ってみようよ」
「そうだな」
花音の発案に、望は部屋に赴く可能性を導き出す。
「あの部屋に赴くためには転送系統のスキルか、アイテムなどを用いる必要がありそうだな」
「ああ。僕は転送系統のスキルか、アイテムなどを用いた可能性が高いと睨んでいる」
望が気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、奏良は改めて、自身の推測を口にする。
そのタイミングで、有は以前から気がかりだったことを切り出した。
「プラネットよ、転送系統といえば、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバーの魔術のスキルの使い手達が転送アイテムなどを使用不可能にする魔術を練り上げてきたことがあったな」
「はい。今回も部屋に行くことを阻止するために使ってくる可能性が高いと思われます。それに『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンでは、転送アイテムなどを使用不可にするトラップが働いているようでした」
有の的確な物言いに、プラネットは丁重に応えた。
「有様。このまま、何の対策もなしに『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンに赴くのは危険な気がします」
「プラネットよ、分かっている」
プラネットの戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせた。
ギルドのカウンターには以前、聖誕祭の射的で手に入れたペンギン男爵のぬいぐるみとメイキングアクセサリーが置かれている。
有がメイキングアクセサリーを注視すると、ウインドウが浮かび、アイテムの情報テキストが表示された。
「あの時、トラップを自由自在に仕掛けていたのは吉乃信也だったな。ならば、メイキングアクセサリーの効果で『レギオン』、もしくは『カーラ』のギルドメンバーに扮すれば、やり過ごすこともできるかもしれないが、上級者プレイヤーには見破られてしまう可能性があるからな」
有は顎に手を当てると、メイキングアクセサリーの効果に着目する。
聖誕祭の射的コーナーにおける目玉景品。
それはイメージした衣装に見た目を変えることができる『メイキングアクセサリー』というものだった。
以前、幻想郷『アウレリア』に赴いた時は望達全員が白いフードを身に纏い、『カーラ』のギルドメンバーに変装することで周囲の目から逃れている。
「あの部屋に赴く手段の確保。そして、敵の目を欺く方法か……」
「はい。何かしらの方法で敵の目を欺く必要があると思います」
望の思案に呼応するように、プラネットは人数分の紅茶を準備すると手際よくテーブルに並べる。
望達はそれぞれ席に座ると、徹からの連絡が来るまでの間、『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンにある部屋に赴く方法について調べ始めた。
「望!」
「勇太くん!」
インターフェースを操作してダンジョン内部を調べていた望達は突如、かけられた声に振り返った。
「遅くなってごめんな」
望達のもとに駆け寄ってきた勇太は居住まいを正すと、改めて遅れた事を謝罪する。
「皆さん、お待たせしてしまって申し訳ありません」
「おはようございます」
リノアの父親の真摯な対応に、望達もまた、挨拶を返す。
望達の懇意に触れて、勇太は昨日、判明した情報を整理した。
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