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留菜マナ
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第百七十九話 忘れじの茸雲⑦

公開日時: 2021年3月16日(火) 16:30
文字数:1,680

「奏良くん、奥の手とかないの?」

「恐らく、『アルティメット・ハーヴェスト』が洞窟の入口で交戦しているはずだ。そこまで行ければ、『カーラ』の注意を『アルティメット・ハーヴェスト』へと完全に向けられる。混戦状態へと持っていけるだろうな」


花音が恐る恐る尋ねると、奏良は自分と周囲に活を入れるように答える。

有は敵の少ない方向に駆け出すと、リノアと向き合っている望に視線を向けた。


望とリノアという少女によるシンクロ。

敵ギルドに囲まれ、転送アイテムもダンジョン脱出用のアイテムも使用することができない過酷な状況。

今のままでは、埒が明かないな。

この状況を打破するためには、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達にリノアを救い出してもらうしかないだろう。


一刻の猶予もならない状況の中、有はそう決断する。


「望、奏良、プラネット、勇太、妹よ、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達がいると思われる洞窟の入口に行くぞ! 望よ、『カーラ』を誘き寄せるために、彼女を連れてきてほしい」

「ああ、分かった」

「うん、分かった」


有の指示に、望は同じ言動を繰り返すリノアの腕を引いて、洞窟の入口へと向かった。

次々と、四方八方から『カーラ』のギルドメンバー達が襲いかかってくる。


「よーし、一気に行くよ!」


望とリノアのその声を合図に、花音は跳躍し、『カーラ』のギルドメンバー達へと接近した。


『クロス・リビジョン!』

「なっ!」


今まさに花音達に襲いかかろうとしていた『カーラ』のギルドメンバー達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、『カーラ』のギルドメンバー達は身動きを封じられた。

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。


『我が声に従え、ララ!』

「ーーなっ!」

「ーーっ!」


望とリノアの驚愕と同時に、望達の目の前に光輝く精霊が現れる。


「ララ、『カーラ』のギルドメンバー達を止めろ!」

「了解!」


金色の光を身に纏った人型の精霊。

妖精達とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。


「道を開けてもらうわよ!」

「なっ!?」

「精霊が邪魔してきたわ!」


ララは浮遊したまま、『カーラ』のギルドメンバー達の行く手を塞いだ。


「邪魔をするな!」


『カーラ』のギルドメンバー達の一人が先手必勝とばかりに、ボウガンでララに狙いを定める。


「そんな攻撃、意味ないわよ」


だが、それが放たれるよりも先に、ララは電光石火の早業で光の檻を生成させた。

彼らの逃げ道を塞ぐように、四方形の光の壁が具現化する。


「何だ?」

「なにこれ! 出られない!」

「これで、あなた達はここから逃げられないわよ」


『カーラ』のギルドメンバー達の叫びをよそに、ララは得意げに腰に手を当てた。

ララは飛来して、徹の前で無邪気に笑う。


「徹。あたし、頑張ったよ。誉めて誉めてー」

「ララ、ありがとうな」

「えへへ……」


徹の称賛に、ララは嬉しそうに赤らんだ頬にそっと指先を寄せる。

その様子を見て、奏良は呆れたようにため息を吐いた。


「何故、君は良いところを取っていくんだ」

「俺は、紘から、おまえらを護ることを任されているからな」


奏良が非難の眼差しを向けると、徹はきっぱりと異を唱えてみせる。


「望、奏良、プラネット、勇太、そして妹よ。徹が『カーラ』のギルドメンバー達を引き付けている間に、洞窟の入口に向かうぞ!」

「ああ、分かった」

「うん、分かった」


有の方針に、望達が頷き、承諾する。


「美羅様!」


賢の叫びをよそに、望達は一気に突破口を開き、洞窟の入口へと向かった。


「『アルティメット・ハーヴェスト』と合流するつもりか」


望達が洞窟の入口に向かう事情を察して、賢は忌々しそうにつぶやいた。

かなめは迷いのない足取りで『カーラ』のギルドメンバー達に向き合うと、なんのてらいもなく言った。


「特殊スキルの使い手の動向は全て、美羅様の手中にあります。私達も、美羅様のもとに赴きましょう」

「はっ」


かなめの指示に、『カーラ』のギルドメンバー達は丁重に一礼すると、速やかに望達の後を追った。

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