メルサの森。
有はインターフェースを表示させて、ネモフィラの花畑までのルートを探索していく。
森の深部へと続く道、ここからはモンスターとの遭遇なしにはいかない。
「くっ!」
望は先導しながら、目の前に現れる空を飛ぶモンスター達を屠っていった。
「ーー出てくるモンスター全てが、空を飛んでいるとやりにくいな」
望は標的を切り替え、剣を構え直す。
狙うべきは、残りの数匹のモンスターだったのだが、望を飛び越えるように羽ばたき、奥へと引っ込もうとしてしまう。
「貫け、『エアリアル・アロー!』」
奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に逃げようとしていたモンスター達へと襲いかかる。
モンスター達は地面に伏すと、羽を撒き散らしながら消えていった。
「一気に行くよ!」
花音は身を翻しながら、鞭を振るい、周囲の空を飛ぶモンスター達を翻弄する。
状況の苛烈さから逃走しようとしたモンスター達を畳み掛けるように、杖を構えた有は一歩足を踏み出した。
『元素還元!』
有は、木の枝へと避難したモンスター達を牽制するように杖を振り下ろす。
有の杖が木に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
木の一つが、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。
木が消えたことで、支えを失ったモンスター達は次々と地面へと落ちていく。
「逃がしません!」
プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を落ちてきたモンスター達に叩きつけた。
それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。
煙が晴れると、モンスター達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。
「よし、望、奏良、プラネット、妹よ、行くぞ!」
「うん」
有の指示に真剣な口調で答えて、花音はまっすぐ森の奥を見つめる。
前方に望と花音、有は真ん中、後方に奏良とプラネットという隊列で突き進んでいった。
「今度は、空を飛ぶ魚のモンスターか」
望達が奥に進んでいくと、三体のトビウオタイプのモンスターが待ち構えていた。
モンスターの頭上にはHPを示す、青色のゲージが浮いている。
『クロス・レガシィア!』
目の前に現れたモンスター達に対して、花音が先手必勝とばかりに天賦のスキルで間隙を穿つ。
先制を突いた花音のスキルに、ターゲットとなったモンスター達は完全に虚を突かれた。
花音の鞭によって、宙に舞ったモンスター達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられる。
HPが0になり、モンスター達はゆっくりと消えていった。
「マスター。ボス戦までは、この付近のモンスター達の討伐に問題ありません」
「そうだな」
後方を警戒していたプラネットの言葉に、望は一呼吸置いて応える。
「ただーー」
プラネットが憂いを帯びた眼差しで空を見上げた途端、突如、メルサの森の空気が変貌した。
「おい、おまえら、逃げろ!」
「このメルサの森の奥に、高位ギルド『カーラ』の集団が降り立ったぞ! 高位ギルドに因縁をつけられれば、ゲームオーバー必死だ!」
戸惑うプラネットの声を遮るように、森の奥から複数のプレイヤー達が一斉に逃げ出してきたのだ。
「高位ギルド『カーラ』……?」
高位ギルド『カーラ』というフレーズに、望達は明確に表情を波立たせる。
「おい! 『カーラ』って、公式リニューアル前に高位ギルドになったギルドだろう!」
「確か、『骨竜』とか化け物を呼び出してくるギルドの集団だったよな!」
「な、なんだよ、それ!? 逃げるぞ!」
その会話が、更なる恐怖の呼び水になったようで、他のプレイヤー達は血の気が引いたように、一目散に森の入口に向かって走っていった。
「ただ、この森の上空から、大人数のプレイヤー達が降り立つのを確認しました」
「なっーー」
プラネットは思考を加速させて、先程、口にすることができなかった言葉を告げる。
「恐らく、上空から偵察されていた可能性があります」
「そうなのか」
プラネットの指摘に、望は困惑したように驚きの表情を浮かべる。
「ーーっ」
だが、その直後、望の背筋に突き刺すような悪寒が走った。
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