兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第五十話 あの日、あの瞬間③

公開日時: 2020年11月26日(木) 16:30
文字数:1,620

メルサの森。

有はインターフェースを表示させて、ネモフィラの花畑までのルートを探索していく。

森の深部へと続く道、ここからはモンスターとの遭遇なしにはいかない。


「くっ!」


望は先導しながら、目の前に現れる空を飛ぶモンスター達を屠っていった。


「ーー出てくるモンスター全てが、空を飛んでいるとやりにくいな」


望は標的を切り替え、剣を構え直す。

狙うべきは、残りの数匹のモンスターだったのだが、望を飛び越えるように羽ばたき、奥へと引っ込もうとしてしまう。


「貫け、『エアリアル・アロー!』」


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に逃げようとしていたモンスター達へと襲いかかる。

モンスター達は地面に伏すと、羽を撒き散らしながら消えていった。


「一気に行くよ!」


花音は身を翻しながら、鞭を振るい、周囲の空を飛ぶモンスター達を翻弄する。

状況の苛烈さから逃走しようとしたモンスター達を畳み掛けるように、杖を構えた有は一歩足を踏み出した。


『元素還元!』


有は、木の枝へと避難したモンスター達を牽制するように杖を振り下ろす。

有の杖が木に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

木の一つが、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。

木が消えたことで、支えを失ったモンスター達は次々と地面へと落ちていく。


「逃がしません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を落ちてきたモンスター達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、モンスター達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。


「よし、望、奏良、プラネット、妹よ、行くぞ!」

「うん」


有の指示に真剣な口調で答えて、花音はまっすぐ森の奥を見つめる。

前方に望と花音、有は真ん中、後方に奏良とプラネットという隊列で突き進んでいった。


「今度は、空を飛ぶ魚のモンスターか」


望達が奥に進んでいくと、三体のトビウオタイプのモンスターが待ち構えていた。

モンスターの頭上にはHPを示す、青色のゲージが浮いている。


『クロス・レガシィア!』


目の前に現れたモンスター達に対して、花音が先手必勝とばかりに天賦のスキルで間隙を穿つ。

先制を突いた花音のスキルに、ターゲットとなったモンスター達は完全に虚を突かれた。

花音の鞭によって、宙に舞ったモンスター達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられる。

HPが0になり、モンスター達はゆっくりと消えていった。


「マスター。ボス戦までは、この付近のモンスター達の討伐に問題ありません」

「そうだな」


後方を警戒していたプラネットの言葉に、望は一呼吸置いて応える。


「ただーー」


プラネットが憂いを帯びた眼差しで空を見上げた途端、突如、メルサの森の空気が変貌した。


「おい、おまえら、逃げろ!」

「このメルサの森の奥に、高位ギルド『カーラ』の集団が降り立ったぞ! 高位ギルドに因縁をつけられれば、ゲームオーバー必死だ!」


戸惑うプラネットの声を遮るように、森の奥から複数のプレイヤー達が一斉に逃げ出してきたのだ。


「高位ギルド『カーラ』……?」


高位ギルド『カーラ』というフレーズに、望達は明確に表情を波立たせる。


「おい! 『カーラ』って、公式リニューアル前に高位ギルドになったギルドだろう!」

「確か、『骨竜』とか化け物を呼び出してくるギルドの集団だったよな!」

「な、なんだよ、それ!? 逃げるぞ!」


その会話が、更なる恐怖の呼び水になったようで、他のプレイヤー達は血の気が引いたように、一目散に森の入口に向かって走っていった。


「ただ、この森の上空から、大人数のプレイヤー達が降り立つのを確認しました」

「なっーー」


プラネットは思考を加速させて、先程、口にすることができなかった言葉を告げる。


「恐らく、上空から偵察されていた可能性があります」

「そうなのか」


プラネットの指摘に、望は困惑したように驚きの表情を浮かべる。


「ーーっ」


だが、その直後、望の背筋に突き刺すような悪寒が走った。


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