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留菜マナ
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第四百四十五話 異なる正義を盾に⑧

公開日時: 2024年1月19日(金) 16:30
文字数:1,010

掲示板の情報を頼りに訪れた『レギオン』と『カーラ』の者達は周辺に視線を張り巡らせる。


「『シャングリ・ラの鍾乳洞』付近で椎音愛梨らしき人物を目撃した情報。本当に信用できるのか?」

「分からん。だがーー」


ただの作り話と断じるには気になる噂である。

それに他に有力な情報がない今、調べる価値は充分にあった。

望はその様子を花音とともに窺いながら、戦闘の準備を整える。


まだ、こちらには気づいていないみたいだ。

偽物の愛梨だとバレないように、花音とリノアの距離を一定に保つ必要があるな。


戦いの熱に侵されながらも、望は『レギオン』と『カーラ』の者達との距離を図っていた。


「望くん……」

「花音、大丈夫だからな」

「花音、大丈夫だから」

「うん」


改めて、これからのことを確認する望とリノアの言葉に、花音は勇ましく点頭してみせる。


「シルフィの力で姿を消すこともできるけれど、その分、魔力消耗は激しい。『サンクチュアリの天空牢』の探索に備えて、今は出来る限り、魔力消耗を抑えたいからな」


『レギオン』と『カーラ』の者達の姿を視野に納めた徹の顔は、不安をより浮き彫りにしている。

徹が契約している精霊『シルフィ』は音の遮断以外にも、その気になれば気配遮断、魔力探知不可まで行うことができる。

しかし、その分、魔力消耗は激しい。


「この場所に訪れたのは紘が告げていたとおり、六人か。紘はこの展開を予測していたのかもな」


紘から告げられた言葉を思い返して、徹は考え込む仕草をした。


「徹様。各個撃破はお任せください」

「まずは敵陣営に紛れ込まないとな」


プラネットの思慮に、徹は複雑そうな表情で視線を落とすと、熟考するように口を閉じる。

そして、花音は望の合図を受けて、リノアとともに駆け出していく。


「……っ」

「あれは……!」


愛梨に扮した花音がリノアとともに駆けていく姿が、『レギオン』と『カーラ』の者達の視界を横切る。


「本当にいたぞ」

「絶対に逃がすな!」


『レギオン』と『カーラ』の者達による、隠しようもない戦意と敵意。

彼らは散開し、愛梨に扮した花音とリノアを行き止まりまで追い詰めていく。

絶望的な状況。交錯する視線。


「……お兄ちゃん、これからどうしたらーー」

「……お兄ちゃん、これからどうしたらーー」


予想外の出来事を前にして、花音とリノアが疑問を口にしようとした瞬間ーー


「リノアーーーーっ!」

「なっ!」


響き渡ったその声に、『レギオン』と『カーラ』の者達は大きく目を見開いた。

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