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留菜マナ
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第四百十四話 別の手段を模索して①

公開日時: 2023年10月2日(月) 16:30
文字数:1,114

『創世のアクリア』のプロトタイプ版。着眼点はやはり、主に『オリジナル版との差異』だ。


「蜜風望だけではなく、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターがいる。さて、この状況をどう覆すのか」


厳戒態勢が引かれた『アルティメット・ハーヴェスト』の本拠地であるこのギルドの牢から出るのは一筋縄ではいかない。

それが分かっているからこそ、信也は予測していたように作業じみたため息を吐いた。


「私の役目は世界に安寧をもたらすことだ」


その根底にあったのは、自らの役目を果たすための機能だけ。

一毅と美羅の願いを叶えるために存在し続けること。

そして、賢とかなめのために世界に理想を殖え続けること。

その四者の命題を果たすために、信也は思考を巡らせていた。


「吉乃信也……」


そこに望が決意を込めた眼差しで訪れる。


「蜜風望、君達の行動が全てを変える」


紘は此度の聴取を上手く有利に進めることができれば、本拠地である機械都市『グランティア』に赴くことが出来ると見込んでいた。

つまりーー『レギオン』と『カーラ』との決戦の時はそう遠くない。

美羅の在り方を好ましく思うにせよ、思わないにせよ。

彼女の力をこれ以上肥大化させてはいけない事だけは確かなのだから。


「先生……いや、吉乃信也。今度こそ、リノアを元に戻す方法を教えてもらうからな!」


勇太は乱れた心を落ち着かせるように、信也のいる牢の前に立った。


「今度こそ、絶対にリノアを救ってみせる!」

「その感情、悲しいな。生を謳歌しようと願っても、人は生きるうえで、あまりにも苦痛が多すぎる」


勇太の弁に、信也は憂いを帯びた声で目を伏せる。


「勇太くん、君もそうだったんだろう。だから、君は必死に久遠リノアを救おうとした。あらゆる世界の悲劇をなくすために。あらゆる過ちをなくすために」


信也の視線が向かう先には過去の悲しい光景が広がっていた。

過ちはあってはならない。

過ちとは罪であり、理想の世界では排除すべきものである。

信也は理不尽な悲劇ーーそしてそれを生み出した世界全てを悲しむように哀憐(あいれん)を口にした。


「久遠リノアを元に戻すためのその代償。その方法を聞いたら、君は必ず拒む」

「拒む……?」


そのとらえどころのない意味深な言葉。それは紘が告げたものと同じだった。


「君は久遠リノアを元に戻すために、別の者を犠牲にできるのかな?」

「犠牲……」


信也が発した問いの意味を勇太は反芻する。


「君達も知っているはずだ。あの失踪事件のことを」

「失踪事件……。『レギオン』と『カーラ』は美羅を現実世界に存在させるために、生贄を欲していた」


そこで望は現実世界で起きたあの事件を呼び起こす。

リノアが美羅の適合者として選ばれたあの忌々しい事件を。

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