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留菜マナ
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第百十七話 もうすぐ魔法がとけるから②

公開日時: 2021年1月13日(水) 16:30
文字数:2,410

「よーし、一気に行くよ!」


花音は跳躍し、ボスモンスター達へと接近した。


『クロス・バースト!』

「「「「ガアアッーーーー!!」」」」


今まさに望達に襲いかかろうとしていたボスモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った封印の効果によって、ボスモンスター達は全ての特性を封じられた。

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。

しかし、花音の防衛をすり抜けて、ボスモンスター達は望達へと迫った。


「お兄ちゃん、お願い!」

『元素復元、覇炎トラップ!』


花音の合図に、有は襲いかかってきたボスモンスター達に向かって、杖を振り下ろした。

有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。

ボスモンスター達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、炎に包まれた。

だが、ボスモンスター達は炎を振り払い、襲いかかってくる。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、ボスモンスター達を怯ませる。


「行きます!」


裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。


「はあっ!」


気迫の篭ったプラネットの声が響き、ボスモンスター達は次々と爆せていく。

花音達の攻撃により、ボスモンスター達のHPは半分近くまで減った。


「「これで決める!」」


そのタイミングで、望とリノアは剣を掲げると、連なる虹色の流星群を一閃とともに放つ。

望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。

それが融合したように、ボスモンスター達に巨大な光芒が襲いかかる。

一片の容赦もない二人の一振りを受けて、二体のボスモンスター達が消滅していった。


「「あと、残り二体!」」

「リノア、任せろ!」


望達の戦いぷりが、勇太の心に火を点ける。

露骨な戦意と同時に、勇太は一気にボスモンスター達との距離を詰めた。


『フェイタル・レジェンド!』


勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、ボスモンスターを襲う。

ボスモンスターのHPは減ったが、倒すまでには至らない。

しかし、勇太は起死回生の気合を込めて、ボスモンスターに更なる天賦のスキルの技を発動させる。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のようにボスモンスターへと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーーーガアアッ!」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、ボスモンスターは怯んだ。

ボスモンスターのHPが一気に減少する。

頭に浮かぶゲージは0になり、ボスモンスターはゆっくりと消えていった。

ボスモンスターは、残り一体になる。


「マスター。ボスモンスターの討伐に問題ありません」

「そうだな」


後方を警戒していたプラネットの言葉に、望は一呼吸置いて応える。


「ただ、『レギオン』の動向が気がかりーー」


プラネットが憂いを帯びた眼差しで『レギオン』に視線を向けた途端、フロアの入口から聞き覚えのある声が轟いた。


『ーー我が声に従え、光龍、ブラッド・ヴェイン!』

「ーーなっ!」

「ーーっ!」


望とリノアの驚愕と同時に、望達の目の前に光龍が現れる。

金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍。

骨竜とさほど変わらない巨躯の光龍は、主である徹の指示に従って、望達に危害を加えようとしたボスモンスターを睥睨した。


「光龍だと!」


突如、具現化した光龍に、『レギオン』のギルドメンバー達が不可解な顔を浮かべて警戒した。


「行け!」


光龍とボスモンスターが相対する中、徹は光龍を使役する。

徹が呼び出した光龍は、身体を捻らせてボスモンスターへと迫った。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


虚を突かれたせいなのか、ボスモンスターは体勢を立て直すこともできずにまともにその一撃を喰らう。

そして、徹が動くのを見計らっていたように、最上階に次々とプレイヤーが駆け上がってきた。

全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器をモンスター達と『レギオン』のギルドメンバー達に突きつけてくる。

恐らく、全員が『アルティメット・ハーヴェスト』の一員なのだろう。

『レギオン』は、望達と一時休戦を結んでいたが、『アルティメット・ハーヴェスト』とは結んでいない。

そのため、ボスとの戦いは、さらに苛烈さを増していく。

味方、敵、中立が混在した混沌の渦の中、最上階は一気に乱戦状態へと陥っていった。


「徹くん!」


右手をかざした花音は、爛々とした瞳で周囲を見渡した。


「おのれ!」

「慌てる必要はない」


凛とした声が、混乱の極致に陥っていた『レギオン』のギルドメンバー達を制する。


「賢様」

「ボス戦と『アルティメット・ハーヴェスト』の介入があったとはいえ、このまま予定どおりに事を進めていけばいい。分かっていると思うが、私達はこの後、運営にアカウントを消され、警察に連行されるだろう。そして、私達が捕まれば、『創世のアクリア』は今度こそ、サービスを完全に停止する」


モンスター達を葬り去っていた賢のつぶやきが、不気味に木霊した。


「だが、蜜風望達は、美羅様と同化した久遠リノアをこのままにはしておけないだろう。たとえ、病院で精密検査を受けたとしても、元には戻らないからな。必ず、特殊スキルを求めて、『創世のアクリア』の世界で、彼女を元に戻す方法を探すはずだ」


長い沈黙を挟んだ後で、賢は淡々と告げる。


「美羅様がいれば、私達の求めている理想の世界はいずれ実現する。そうなれば、私達は再び、『明晰夢』の力を得ることができるはずだ。その時、『レギオン』と『カーラ』は世界を救った救世主だとして称えられ、全ては美羅様のーー私達の思いのままになる」

「はっ。ここに来るまでに、身辺整理は全て済ましています」


賢は、美羅の腹心。

彼の行動は、美羅の意向に基づいている。

嗜虐的な賢の指示に、『レギオン』のメンバー達は丁重に一礼したのだった。

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