「よーし、一気に行くよ!」
花音は跳躍し、ボスモンスター達へと接近した。
『クロス・バースト!』
「「「「ガアアッーーーー!!」」」」
今まさに望達に襲いかかろうとしていたボスモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。
花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った封印の効果によって、ボスモンスター達は全ての特性を封じられた。
さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。
しかし、花音の防衛をすり抜けて、ボスモンスター達は望達へと迫った。
「お兄ちゃん、お願い!」
『元素復元、覇炎トラップ!』
花音の合図に、有は襲いかかってきたボスモンスター達に向かって、杖を振り下ろした。
有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。
ボスモンスター達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、炎に包まれた。
だが、ボスモンスター達は炎を振り払い、襲いかかってくる。
「奏良よ、頼む」
「言われるまでもない」
有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。
発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、ボスモンスター達を怯ませる。
「行きます!」
裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。
「はあっ!」
気迫の篭ったプラネットの声が響き、ボスモンスター達は次々と爆せていく。
花音達の攻撃により、ボスモンスター達のHPは半分近くまで減った。
「「これで決める!」」
そのタイミングで、望とリノアは剣を掲げると、連なる虹色の流星群を一閃とともに放つ。
望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。
それが融合したように、ボスモンスター達に巨大な光芒が襲いかかる。
一片の容赦もない二人の一振りを受けて、二体のボスモンスター達が消滅していった。
「「あと、残り二体!」」
「リノア、任せろ!」
望達の戦いぷりが、勇太の心に火を点ける。
露骨な戦意と同時に、勇太は一気にボスモンスター達との距離を詰めた。
『フェイタル・レジェンド!』
勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。
勇太の放った天賦のスキルによる波動が、ボスモンスターを襲う。
ボスモンスターのHPは減ったが、倒すまでには至らない。
しかし、勇太は起死回生の気合を込めて、ボスモンスターに更なる天賦のスキルの技を発動させる。
『フェイタル・ドライブ!』
勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のようにボスモンスターへと襲いかかった。
万雷にも似た轟音が響き渡る。
「ーーーーガアアッ!」
迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、ボスモンスターは怯んだ。
ボスモンスターのHPが一気に減少する。
頭に浮かぶゲージは0になり、ボスモンスターはゆっくりと消えていった。
ボスモンスターは、残り一体になる。
「マスター。ボスモンスターの討伐に問題ありません」
「そうだな」
後方を警戒していたプラネットの言葉に、望は一呼吸置いて応える。
「ただ、『レギオン』の動向が気がかりーー」
プラネットが憂いを帯びた眼差しで『レギオン』に視線を向けた途端、フロアの入口から聞き覚えのある声が轟いた。
『ーー我が声に従え、光龍、ブラッド・ヴェイン!』
「ーーなっ!」
「ーーっ!」
望とリノアの驚愕と同時に、望達の目の前に光龍が現れる。
金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍。
骨竜とさほど変わらない巨躯の光龍は、主である徹の指示に従って、望達に危害を加えようとしたボスモンスターを睥睨した。
「光龍だと!」
突如、具現化した光龍に、『レギオン』のギルドメンバー達が不可解な顔を浮かべて警戒した。
「行け!」
光龍とボスモンスターが相対する中、徹は光龍を使役する。
徹が呼び出した光龍は、身体を捻らせてボスモンスターへと迫った。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
虚を突かれたせいなのか、ボスモンスターは体勢を立て直すこともできずにまともにその一撃を喰らう。
そして、徹が動くのを見計らっていたように、最上階に次々とプレイヤーが駆け上がってきた。
全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器をモンスター達と『レギオン』のギルドメンバー達に突きつけてくる。
恐らく、全員が『アルティメット・ハーヴェスト』の一員なのだろう。
『レギオン』は、望達と一時休戦を結んでいたが、『アルティメット・ハーヴェスト』とは結んでいない。
そのため、ボスとの戦いは、さらに苛烈さを増していく。
味方、敵、中立が混在した混沌の渦の中、最上階は一気に乱戦状態へと陥っていった。
「徹くん!」
右手をかざした花音は、爛々とした瞳で周囲を見渡した。
「おのれ!」
「慌てる必要はない」
凛とした声が、混乱の極致に陥っていた『レギオン』のギルドメンバー達を制する。
「賢様」
「ボス戦と『アルティメット・ハーヴェスト』の介入があったとはいえ、このまま予定どおりに事を進めていけばいい。分かっていると思うが、私達はこの後、運営にアカウントを消され、警察に連行されるだろう。そして、私達が捕まれば、『創世のアクリア』は今度こそ、サービスを完全に停止する」
モンスター達を葬り去っていた賢のつぶやきが、不気味に木霊した。
「だが、蜜風望達は、美羅様と同化した久遠リノアをこのままにはしておけないだろう。たとえ、病院で精密検査を受けたとしても、元には戻らないからな。必ず、特殊スキルを求めて、『創世のアクリア』の世界で、彼女を元に戻す方法を探すはずだ」
長い沈黙を挟んだ後で、賢は淡々と告げる。
「美羅様がいれば、私達の求めている理想の世界はいずれ実現する。そうなれば、私達は再び、『明晰夢』の力を得ることができるはずだ。その時、『レギオン』と『カーラ』は世界を救った救世主だとして称えられ、全ては美羅様のーー私達の思いのままになる」
「はっ。ここに来るまでに、身辺整理は全て済ましています」
賢は、美羅の腹心。
彼の行動は、美羅の意向に基づいている。
嗜虐的な賢の指示に、『レギオン』のメンバー達は丁重に一礼したのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!