敵意をあらわにする勇太をまっすぐに射貫くと、信也は静かな声音で真実を口にする。
「つまり、賢とかなめが現実世界にいる今、君達がこの仮想世界で事を起こしても何も変わらないわけだ」
「変わらない……」
信也の表情を見て、勇太は察してしまった。
吉乃信也を捕らえる前に、まずはリノアの意識を失わせる。
有が発した一気呵成の提案。
だが、賢とかなめが現実世界でリノアに何らかの細工を施し、仮想世界で意識を失わせないように仕向けている可能性がある。
そのようなことになれば、勇太達のこれまでの努力は水の泡になるだろう。
「勇太、惑わされるなよ!」
疑念の渦に沈みそうになっていた勇太の意識を掬(すく)い上げたのは、二体の骨竜の対処に回っていた徹の声だった。
「現実世界で仮想世界のリノアの意識を失わせないようにすることはできないからな」
「「徹?」」
望とリノアは不思議そうに、徹の真偽を確かめる。
「紘が特殊スキルを用いて、吉乃信也の『明晰夢』の力を発動を阻止するために動いている。だが、それと同時に現実世界には『アルティメット・ハーヴェスト』が管轄しているプライバシー制度が行使されている」
「今、まさに私の『明晰夢』の力を封じているというのに、現実世界をも干渉する。『強制同調(エーテリオン)』の力は脅威といえよう……」
確信を持ってその結末を受け入れている信也の静かな声が、受け入れがたい事実を突きつけてくる。
「鶫原徹、その通りだ。だからこそ、賢とかなめにはその妨害を防ぐために久遠リノアが入院している病院で対処してもらっている。だが、椎音紘の特殊スキルには相当、手こずっているようだ」
「なっ!」
信也が語った真実に、勇太は虚を突かれたように目を瞬かせてしまう。
疑問が氷解すると同時に戦慄させられた。
「しかし、驚きだ。鶫原徹。君は二体の骨竜を対処しながら、私達の会話に参加する余裕があったのか」
「……おまえ、俺が聞いていることを知っていて、わざと会話を続けていただろう」
信也の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
「賢とかなめがこの場に来ないというのは事実だ。賢とかなめは現実世界にいるからな」
信也の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「とにかく、愛梨も紘も、そして望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
「愛梨を守ることが僕の役目だ」
強い言葉で遮った徹の言葉を追随するように、奏良は毅然と言い切る。
「有様。電磁波の発信は今も確認されません」
「プラネットよ。ニコットは機械都市『グランティア』にいるのかもしれないな」
プラネットの思慮に、有は複雑そうな表情で視線を落とすと熟考するように口を閉じた。
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