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留菜マナ
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第五百四十話 黄昏の想いは⑦

公開日時: 2024年12月16日(月) 16:30
文字数:1,320

最初は、ただの愛梨と吉乃美羅のデータの集合体だった『救世の女神』という存在。

しかし、特殊スキルの使い手である望と愛梨にシンクロさせることによって、実際の人間と同化させられるところまで進化を果たしていた。


「美羅様。久遠リノアは元に戻りましたが、既に新たな器は用意しております」


もう会えないと絶望した。

もう一度、会いたいと夢想した。

恋に焦がれて、現実に打ちのめされて、それでも求めた女性がもうすぐ手に届く。


「吉乃美羅様……。あなたを完全に生き返させること。それが、今の私達の成すべきことです」


身を焦がすあらゆる感情を呑み込んで、賢は大切な女性の名前を口にした。


「美羅様の真なる覚醒。後は、椎音愛梨とのシンクロだけです」


儚き過去への回想ーー。

沈みかけた記憶から顔を上げ、現実につぶやいた賢は、望達を出迎えようとしていた。






「カリリア遺跡で、最初にボス討伐を行ったギルドのみに配布された伝説の武器って、『レギオン』の人達が持っているんだよね」

「ああ。星詠みの剣、アルビノの鞭、アサルトライフル、神速の弓だな」


花音が発した疑問に、徹は記憶を辿りながら応える。


「その武器って、誰が持っているのかな?」

「妹よ、確かにそうだな」


有もまた、花音と同じ疑問を抱いていた。

星詠みの剣は賢が使いこなしている。

だが、他の伝説の武器は誰の手に渡っているのだろうか。

その答えはリノアの両親が示した。


「全て、賢様が持っています」

「ええっ! 全部!?」

 

そんな花音の想いとは裏腹に、ニコットは動きを加速させていく。


「蜜風望の逃亡確認。交戦を一時中断し、これより追跡に移ります」


それを火蓋として、ニコットは数本のダガーを花音に向けて投げようとした。


「させません!」


しかし、その不意打ちは、プラネットには見切られていた。

前に出たプラネットは反射的に飛んできたダガーを弾くと、その方向に向かって電磁波を飛ばした。


「ーーっ」


初擊の鋭さから一転してもたついたニコットは、電磁波の一撃をまともに喰らい、苦悶の表情を浮かべた。


「ニコットは、妨害対象を排除ーー」


ニコットの言葉が途切れる。

何故ならーー


「その行動は予測済みです!」

「……っ」


見覚えのある少女が跳躍し、ニコットの不意を突くようなかたちで槍を振るってきたからだ。


「なっ……!」


それを見た『レギオン』のギルドメンバー達の心中には緊張が走る。


「あなたの相手は、私が務めます!」


そこにいたのは、『アルティメット・ハーヴェスト』が管理するNPCの少女ーーイリスだった。


「突然、姿を現しただと?」

「徹様が契約している精霊は、様々な力を持っています。気配遮断を用いて、あなた方を欺くことなど、たわいもないことです」


『レギオン』のギルドメンバー達の疑問に、イリスは冷静に応えた。

徹は今回、複数の高位ギルドと遭遇することに備えて、予め契約している精霊『シルフィ』を呼んでいる。

『シルフィ』は音の遮断以外にも、その気になれば気配遮断、魔力探知不可まで行うことができた。

今回、徹は奇襲に備えて、イリスに対して気配遮断を用いていたのだ。

その分、魔力消耗は激しいが、望達を護るための最適解だった。

次撃のニコットの動きを見計らったように、イリスは槍を振りかざす。

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