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留菜マナ
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第三百十ニ話 暁の誓い③

公開日時: 2021年10月15日(金) 16:30
文字数:1,533

「こうも、対処が後手に回り続けるのは否めないな。そもそも、君達が管轄しているダンジョンなどに対して、警固な防衛線を築き上げることは出来ないのか?」

「『アルティメット・ハーヴェスト』は、管轄しているダンジョンなどへの対処に回っている。ただ、プロトタイプ版の運営は、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っているから、どうしても先手を打たれて後手に回ることになるんだ」


奏良の懸念に、徹は不服そうに答える。


「運営側の権限。つまり、事前情報や索敵による調査だけではもはや、対応出来ないということか」

「ああ」


有の確信に近い推察に、徹は肯定の意を込めて頷いた。


「これからも、『レギオン』と『カーラ』の人達の奇襲に警戒しないといけないのかな」


運営側の権限を利用して、常に望達の行く先々で待ち構えている。

賢達の魂胆を見抜き、花音は不満そうに唸った。


「そうだな。ダンジョン調査クエストで赴くダンジョンだけじゃなく、他のクエストも危険性は変わりないからな。ただ、これからも、望達の警護をイリス達に任せている。もちろん、ダンジョンなどに赴く際には、俺も同行するけれどな」

「徹くん達は、これからも一緒に来てくれるんだね!」


徹の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。

既に陽は沈み、夜の暗幕が街に落ちている。

有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並み自体は、ダンジョンへと赴いた時とさほど変わらない。

NPCである店員が、店内を切り盛りしているだけで、周囲は閉散としていて人気は少ない。


「相変わらず、この街にいるプレイヤーが、僕達だけというのはいささか複雑な心境だな」

「うん。いつも私達、ギルドの貸し切りみたいだね」


奏良の懸念に、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて答える。

やがて、右手をかざした花音は、爛々とした瞳で周囲を見渡し始めた。


「でも、奏良くん、プラネットちゃん。『レギオン』と『カーラ』の人達が、また望くんとリノアちゃんを狙って何処かに隠れているかもしれないよ!」

「はい。以前は盲点を突かれてしまいましたが、必ず見つけてみせます!」

「花音、プラネット、ありがとうな」

「花音、プラネット、ありがとう」


両手を握りしめて語り合う花音とプラネットに熱い心意気を感じて、望とリノアは少し照れたように頬を撫でてみせる。


「妹よ。今日はもう遅い。望達の家に連絡をいれておきたいし、そろそろギルドに戻るぞ」

「うん」


有が咄嗟にそう言って表情を切り替えると、花音は嬉しそうに応じる。

現実世界へ帰還するために、望達は早速、ギルド内へと足を運ぶ。


「ただいま、お母さん!」

「花音、お帰り」


花音が喜色満面でギルドに入ると、奥に控えていた有の母親は穏やかな表情を浮かべる。

アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出していた。

『レギオン』の魔の手から逃れた喜びも束の間、有は今後のことを思案した。


「プラネットよ、残りの調査対象になるダンジョンは三ヶ所だったな?」

「はい、『這い寄る水晶帝』の調査を終えたので、残りは三ヶ所になります」


有の的確な疑問に、プラネットは訥々と答える。


「残りは三ヶ所か。一ヶ所調査するのに、かなり時間がかかり過ぎているな」


プラネットの報告に、奏良はカウンターに背を預けて、疲れたように大きく息を吐いた。


「残りの調査対象になるダンジョンは、どれくらいの時間で調査を終えられるんだ?」

「残りは全て、『サンクチュアリの天空牢』と同等の中級者ダンジョンになります。同程度の時間がかかるものと思われます」


奏良の質問に、プラネットは躊躇うように口にする。

そのタイミングで、花音は先程から気がかりだった事を切り出した。

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