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留菜マナ
留菜マナ

第三十九話 星空のプラネット④

公開日時: 2020年11月21日(土) 07:00
文字数:1,847

「だけど、ここじゃ目立つから、詳しい話はギルドの中で聞くからな」

「ああ」


徹の提案に、有は得心いったように頷いた。

徹に案内されて、望達は早速、白亜の塔へと向かう。

美しい外見と同様に、ギルドの中も荘厳な作りとなっていた。

床は磨き上げられた大理石のように、綺麗で埃ひとつない。

窓や壁も強襲に備えて、強度も高そうだった。


「徹様、お帰りなさいませ」


塔の入口に控えていたプレイヤー達が、一斉に恭しく礼をする。


「これから、上位ギルドの『キャスケット』と重要な話をする。紘の話では、『レギオン』の襲撃があったみたいだから、警戒を怠らないようにな」

「承知致しました」


徹の指示に、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達は丁重に一礼した。

徹達はギルドホームの二階に上がると、会議に使う一室へと入る。

テーブルには人数分の紅茶が並べられており、中央には三段重ねのスタンドが置かれ、スイーツが載っていた。


「わーい! すごく美味しそうだよ!」


豪華なスイーツを前にして、花音は屈託のない笑顔で歓声を上げた。

望達がそれぞれ席に座ると、徹が率先して紅茶とスイーツを口に運ぶ。

それに倣って、望達もカップを持つ。


「ゲーム内で、ここまでスイーツと紅茶の味を再現できるのはすごいよ!」


高価な嗜好品であるスイーツーーそのままの味に感動した花音が、両手を広げて喜び勇んだ。


ログアウトが出来なかった頃、有があらかじめギルド専用の避難拠点を用意していたため、望達は食料などの物資に困ることはなかった。

ゲーム内で食べても意味はないが、それでも食事を堪能することができるというシステムは、プレイヤー達にとって魅力を感じる事柄だった。

しかも、『アルティメット・ハーヴェスト』で味わったスイーツと紅茶は、現実のものとさほど変わらないほどの再現度である。


カップを置いた徹は、心を落ち着けるように話を切り出した。


「何が聞きたいんだ?」

「望と入れ替わった際における愛梨の一時的なギルドの兼任の要請をしたい。そして、先程、望を襲ってきた少女についてだ」

「愛梨の一時的なギルドの兼任の要請は、運営から話を聞いているよ。別に問題ないからな」


有の要求に、徹は素っ気なく答える。


「そして、蜜風望を襲った少女は、高位ギルド『レギオン』に所属する自律型AIを持つNPCだ。ここからは重要な話になるからーー『我が声に従え、シルフィ!』」


徹はそこまで告げると、自身が契約している精霊を呼び出した。

主である徹の意思を汲んだように、周囲の音がぴたりと遮断される。

外に音が漏れないように、室内に見えない壁を張ったのだ。

周囲の音が聞こえなくなったことを確認すると、徹は仕切り直して続けた。


「高位ギルド、『レギオン』。特殊スキルの使い手を狙っているギルドの一つだ」

「『レギオン』?」


望は不思議そうに、徹の真偽を確かめる。


「機械都市、『グランティア』の一角にギルドホームを構える高位ギルドで、参謀の手嶋賢が実質、実権を握っているんだ」

「ギルドマスターはいないのか?」

「……いるにはいるけれど、愛梨のデータの集合体をギルドマスターとして讃えている危険なギルドなんだよ」


有の疑問に、徹は吐き捨てるような呪詛のような言葉を返した。

高位ギルド『レギオン』は、愛梨のデータの集合体である美羅の覚醒を企む不気味な集団である。

データの集合体である美羅の覚醒そのものが、実際にはあり得ない出来事だ。

しかし、『レギオン』は、それができると信じて邁進している。


「愛梨の……?」


望が口元に手を当てて考えると、徹は厳かな口調で続けた。


「『レギオン』は、愛梨のデータの集合体である美羅の覚醒のために、特殊スキルの使い手達を狙っているんだ」

「ーーっ」


驚愕する望達をよそに、徹は一呼吸置いて続ける。


「『美羅の覚醒』というーー神にも等しい存在を、自らの手で創り出すためにな」

「愛梨のデータの集合体を、神として崇めているギルドか。どこまで信憑性のある話なのか判断がつかんな」


徹の説明に、奏良は背もたれに背を預けて、疲れたように大きく息を吐いた。


「その話が事実なら、愛梨は確かにログインさせない方がいいな」


奏良は紘が告げた言葉を思い返して、渋い顔をする。


「俺が語れるのはここまでだ」


徹は考え込む素振りをしてから、改めて望達を見据えた。


「鶫原徹よ。手間を取らせてしまってすまない」

「ああ」


有の感謝の言葉に、徹は照れくさそうに答える。

一通りの話が終わったところで、望達は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドを出たのだった。


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