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留菜マナ
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第五百三十九話 黄昏の想いは⑥

公開日時: 2024年12月13日(金) 16:30
文字数:1,119

「それに『星詠みの剣』を始めとした伝説の武器は、こちらにある」


伝説の武器は、『創世のアクリア』のオリジナル版、そしてプロトタイプ版でも存在している。

望達が直に見たことがない理由、それは高位ギルドが独占していたからだ。

『レギオン』と『カーラ』。

『アルティメット・ハーヴェスト』。

そして、熟練のソロプレイヤーであり、かなめの兄、吉乃信也が手にしていた。

こうした伝説の武器を簡単に手に入れることができるのも、開発者側である特権だろう。

張りつめた空気が漂う中、賢の周囲では慌ただしくギルドメンバー達が行き来している。


「ニコット。美羅様の真なる覚醒には、君の力が必要だ」


賢の訴えに、画面の向こう側にいるニコットの返事は返ってこなかった。

その瞬間、沼底から泡立つように浮かんだ一毅の言。


『『究極のスキル』を使って、美羅を生き返させてくれないか……』


それは、一毅が賢達に託した遺言。

いつしか賢にとってーー賢達にとって、その望みを叶えることが生き甲斐となっていた。


賢と信也とかなめ、一毅と美羅。


五人の関係を崩壊させた忌まわしき事故が、まるで昨日のことのように追憶される。


「何故、だ……」

「一毅、美羅、しっかりしろ!」

「そんな……」


あの日、賢達の慟哭にも似た叫び声が轟いた。

悲痛な声は、夜空に吸い込まれて消える。

彼らの死亡原因は、ワゴン車に乗って研究室へと赴いていた際、車同士の衝突事故に巻き込まれたことだった。


吉乃一毅。

吉乃美羅。

二人の通夜と告別式に参列し、賢達は一毅と美羅の死を否応なしに実感する。


『『究極のスキル』を使って、美羅を生き返させてくれないか……』


一毅が最期に残した遺言。

それは、死にゆく者が残された者達に対して遺した言葉。

その夜、賢達の心中で、彼の言葉が残響のように繰り返される。

それはまるで、祈りを捧げるような願いだった。

一毅のその言葉は、今までのどの言葉よりも賢達の心に突き刺さり、的確に賢達の心を揺さぶり続ける。

今も終わることのない友人から託された使命。

それが残された賢達の生き様であり、成すべきことだった。


「美羅様はーー吉乃美羅様は、今も生きている。彼女(リノア)の中でな」


賢は不敵な笑みを浮かべた。

あの日、思考を加速させた賢は、やがて禁断の方法へと目を向ける。


それは、特殊スキルの使い手達のデータを収集して、新たな特殊スキルの使い手ーー美羅を産み出そうというものだった。


賢は、自身の思想に共感したプレイヤー達とともに、『レギオン』を発端させるとすぐに動き出した。

特殊スキルの使い手である愛梨のデータを収集すると、ギルドメンバー達のスキルを複合させて、そのデータベースを再構築(サルベージ)させるという離れ技を実行してみせたのだ。

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