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留菜マナ
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第ニ百二話 境界の魔術士⑥

公開日時: 2021年4月8日(木) 16:30
文字数:1,491

「とにかく、ここから離れるぞ!」

「ああ」

「うん」


部屋の扉をこじ開けた徹に案内されて、望達はロビーへと向かう。

『サンクチュアリの天空牢』は毒気を抜かれるほどに、ただの壮麗な宮殿だった。

牢獄という雰囲気は微塵もない。

天井には燦然と輝く大小様々なシャンデリアが設えられ、壁際にはガーディアンを模した彫像が飾られている。

それは、空想の物語に迷い込んでしまったような錯覚を起こしてしまうような光景だった。


「まるで、絵本の中のお城に来たみたいだよ」


花音は感慨深げに、周りを見渡しながらつぶやいた。


「とりあえず、有達にメッセージを飛ばしてみるな」

「とりあえず、有達にメッセージを飛ばしてみるね」


メッセージは、プレイヤー同士を繋ぐ通信手段だ。

望とリノアが半透明のホログラフィーを表示して、有に向けて文字を入力し、送信する。

だが、ブログレスバーは出てこず、エラーが出ただけで終わってしまった。


「ダメか」

「ダメね」


望とリノアは失意の表情を浮かべたまま、ホログラフィーを消す。

状況がいまいち呑み込めず、望とリノアは苦々しい顔で眉をひそめた。


「お兄ちゃん達、大丈夫かな」


赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。

すると、望とリノアはそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。


「花音。俺達にも分からないけど、答えを探す努力はするからな」

「花音。私達にも分からないけど、答えを探す努力はするね」

「……うん。望くん、リノアちゃん、ありがとう」


顔を上げた花音は、胸のつかえが取れたように微笑む。

望達は意気消沈しながらも、有達を探し求めてロビーへと歩を進めた。

しばらく先を進んでいると、望達は後方から迫るモンスターの気配を感じ取る。


「望くん達に手出しはさせないよ!」


花音は身を翻しながら、鞭を振るい、目の前に現れたモンスター達を翻弄する。

だが、それはほんのわずか、モンスター達の動きを鈍らせただけで動きを止めるには至らない。

だが、望とリノアがモンスター達めがけて跳躍するのには、それだけで充分だった。


「「はあっ!」」


望とリノアの剣戟により、あっという間に一刀両断されたモンスター達は、その場から姿を消していった。


「俺も負けていられないな!」


望達の戦いぷりが、勇太の心に火を点ける。

露骨な戦意と同時に、勇太は一気にモンスター達との距離を詰めた。


『フェイタル・レジェンド!』


勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、モンスター達を襲う。


「「はあっ!」」

「行くぜ!」


望とリノア、そして勇太の攻撃が、モンスター達を蹴散らしていく。

モンスター達は、次々と討ち果たされていった。

やがて、全てのモンスター達が消滅する。


「わーい! 大勝利!」


両手を広げた花音が歓喜の声を上げる。


「よし、レベルが上がった!」


勇太はインターフェースを使い、ステータスを表示させると、自身のレベルの上昇と新たなスキル技を覚えたことを確認した。


「マップによれば、この先に階段があるはずだな」


徹は、インターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを視野に入れながら模索する。

フロアに出現するモンスター達の突破を滞りなく終え、望達はロビーを目指して、さらに上層へと階段を上がっていく。


「ここは?」


一気に上階まで上がり、望達が散発的に遭遇するモンスター達を倒しながら進んでいると、やがて広いフロアに出る。

平たい円柱状になったスペースは、『サンクチュアリの天空牢』の入口付近に配置されている地点だった。

中央には、望達が最初にいたロビーに繋がる道が見受けられた。

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