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留菜マナ
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第百十話 星空の螺旋階段②

公開日時: 2021年1月6日(水) 16:30
文字数:2,307

「そろそろ、フロアに出るみたいだ」

「そろそろ、フロアに出るみたい」


第五十層に向かう階段を駆け上っている途中、望が後ろの有達に呼びかけた。

望が発した警告に、リノアもまた、同じ言葉を返す。


「恐らく、ここが最上階だろう」

「最上階にはボスモンスター、後方からは『レギオン』による追っ手。八方塞がりだな」


有の忠告に、銃を構えた奏良が肩をすくめる。


「プラネットちゃん、頑張ろうね」

「はい」


鞭を階段に叩いた花音は、最後尾のプラネットに視線を向けて、喜色満面に張り切った。

やがて、塔の最上階ーー天井に房(ふさ)飾りがちりばめられている広いスペースに、望達は出る。

望達が足を踏み入れた瞬間、その場の空気が変わった。

最上階の層全域に、瘴気が宙に漂う。

やがて、それらが一ヶ所に積み重なり、形を成していく。


「ーーって、わっ! お兄ちゃん、ボスが出たよ!」


目の前に現れた巨大なモンスターに、花音が怯えたように有の背後に隠れる。

顔と境目が判別できない巨大な黒珠状の胴体には、手足は存在しない。

だが、どういうわけか、ふわふわと、床からわずかに宙に浮いている。

黒珠状の巨大なモンスター。

それが、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』に潜むボスモンスターの全貌だった。

モンスターの巨大さ、醜悪な形状、何より全身から醸し出している凶悪な雰囲気に、望達は圧倒され、言葉にできない恐れを感じる。


「望、奏良、プラネット、妹よ、後戻りはできない。全力で葬るぞ!」

「うん」

「はい」

「逃げられそうもないからな」


有の指示に、花音とプラネットが頷き、奏良は渋い顔で承諾した。


「ーーみんな、攻撃が来るぞ!」

「ーーみんな、攻撃が来る!」


望とリノアの叫びと同時に、有達は一斉に散開した。

飛び込んできたボスモンスターの胴体が、地面に突き刺さる。

砕かれた床の破片が、壁まで吹き飛んだ。

胴体がまともに当たれば、死亡。

砕けた破片に当たっても危険。

ボスモンスターは一撃で、望達をゲームオーバーにするほどの力を備えていた。

望達にとって明らかに分相応な戦いだが、このボスモンスターを倒せば、転送石を使ってギルドなどへの移動が楽になる。

そして、敵対する高位ギルド『レギオン』との『レイドボス戦』に持ち込めば、乱闘となり、勝機を掴むことができるはずだった。

危険な賭けだったが、望達は敢えてボスモンスターを攻略するという勝負に出た。


「ボスモンスターか」


最上階に上がってきた賢達を見るなり、ボスモンスターは矛先を賢達へと変える。

レーザーの如き、闇の一線が放たれ、賢達に襲いかかった。


「賢様!」


天賦のスキルの使い手達が、賢の盾になるように、ボスモンスターの前に立ち塞がる。


『『フェイタル・レジェンド!』』

『ーーーーガアッ』


天賦のスキルの使い手達が、勇太と同じ技を同時に放つ。

HPを減らされたボスモンスターは、大きく吹き飛ばされて地面を転がる。


『ガアッッーーーー!!!!』


ボスモンスターは再び、浮かび上がると、今度はフロア一帯に魔力を放出する。

フロア全体に向かって、斜線状に黒い光が襲いかかった。


「「くっ……!」」


混沌とした闇の一線を、望達はかろうじて避けた。


「わっ! これじゃ、前に行けないよ!」


即座に鞭による攻撃で怯ませようとしていた花音は、次々と放たれる闇の一線に反撃の手を止める。


『エアリアル・アロー!』


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉にボスモンスターへと襲いかかった。

HPを示すゲージは少し減ったものの、青色のままだ。

その時、大剣を抜き放った勇太が、リノアの両親とともに階段を駆け上がってきた。


「リノアを元に戻せ!」


打ち倒すべき敵を睨み据えた勇太は床を蹴って、勇猛果敢に賢に向かって駆ける。


「勇太くん。今は、君の相手をしている暇はない」


勇太を迎え撃つように、賢は厳かに剣を構えた。


「だったら、リノアを今すぐ元に戻せ!」

「……愚かな」


勇太の即座の切り返しに、賢は落胆したようにため息をつく。


「喰らえ!」

「……くっ」


勇太の大剣との賢の剣のつばぜり合いは一瞬で終わり、カキンと高い音を響かせて離れた二人は、そこから脅威的な剣戟の応酬を見せた。

先程の戦いで見せた速度をさらに越える瞬発。

迷いのない美しい賢の一刀に、勇太はぎりぎりのところで大剣を受ける。

剣と大剣がぶつかり合う度に散る、互いのHP。


『フェイタル・レジェンド!』

「ーーっ」


勇太が放った天賦のスキルによる大技は、賢の距離が極端に離れたことで対応された。


「すごいな」

「すごいね」


高度で複雑な剣閃の応酬。

勇太はリノアの両親のスキルによって、体力を回復し、攻撃力を上げたことで、接戦へと持ち込めていた。

ボスモンスターによるレーザーの如き闇の波動を避けながら、望とリノアは驚嘆のため息を吐く。


「『レギオン』の視線がボスモンスター達に向かっている今なら、彼女の座標をずらされることはないはずだ。俺が戦っても問題ない!」

「『レギオン』の視線がボスモンスター達に向かっている今なら、私の座標をずらされることはないはず。私が戦っても問題ないよね!」


ボスモンスターによる鳴り止まない砲撃音の中、望達はボスモンスターを倒し、『レギオン』の魔の手から逃れるためにフロア内を駆け回った。


「「はあっ!」」

『ーーーーガアッ』


望とリノアは剣を掲げると、連なる虹色の流星群を一閃とともに放つ。

望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。

それが融合したように、ボスモンスターに巨大な光芒が襲いかかる。


『ガアッッーーーー!!!!』


一片の容赦もない二人の剣の一振りを受けて、ボスモンスターはHPを大幅に減らす。

しかし、その瞬間、ボスモンスターの形状が変わり、新たな形態へと変化していった。


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