「『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンを明晰夢の力を用いて生成した。それってつまり、自分達が作り上げたダンジョンの内部を知ってから、吉乃信也と吉乃かなめがあの時、作戦の指揮を執っていたのか」
「吉乃信也と吉乃かなめがあのダンジョンに付加したのは明晰夢の複合。吉乃信也の明晰夢の力と吉乃かなめの明晰夢の力を使って、ダンジョンを無理やり構築させたんだ」
確信を持ってその結末を受け入れている徹の静かな声が、望にとって受け入れがたい事実を突きつけてくる。
「ダンジョンを無理やり構築……!?」
そこで改めて、望は明晰夢の力による変革の恐ろしさを目の当たりにしたのかもしれない。
「複合スキルの時のように、複数の明晰夢を合わせて使うことができるのか!」
様々な記憶の断片が、望に一つの真実を呼び起こす。
アイテム生成のスキル。
それは、様々な道具を作り出す力で、錬金術に近いスキルとして用いられていた。
天賦のスキル。
それは、自身の武器が持つ特性を最大限に生かして、技を放つスキルだ。
この二つのスキルが複合したことによって得た恩恵は、特殊スキルの力が込められた武器にも対抗することができるという想像を絶する結果として導かれていた。
「明晰夢の複合か」
望が示した事実に、花音は改めて自分が為すべきことを触発された。
「ねえ、お兄ちゃん。吉乃信也さんと吉乃かなめさんが『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンを構築したんだよね?」
「恐らくな」
花音が具体的な疑問を口にすると、有は思考を深める。
「だったら闇雲に探すより、吉乃信也さんから部屋に入る方法を何とかして聞き出したらどうかな?」
花音はとっておきの腹案を披露するように有を見つめた。
「なるほど、妹よ、一理あるな」
有は顎に手を当てると、花音の発想に着目する。
「つまり、情報をもとに部屋の位置座標を特定するんだな」
花音の提案に触れて、望は納得したように頷いてみせた。
「花音、君は全く効率的ではない。そもそも、吉乃信也からどうやって聞き出すつもりだ」
花音の突飛な発案に対して、奏良はどこまでも懐疑的である。
「そうだな。なら、『レギオン』と『カーラ』の内情を知るために……なっ!?」
独りごちた望はそこで決定的な変化に気づき、驚愕する。
先程まで存在していた部屋ーー。
それが突如、ダンジョンマップから消え失せたからだ。
「これは……ダンジョンマップそのものが変化したのか。それともダンジョン自体が変化したというのか?」
既に表示していたダンジョンマップの内部が変化したという事実。
驚愕の事実に、奏良は驚きを隠せずにいた。
「プロトタイプ版の運営は、開発者側の私達が握っているからな。表示させたその時点では存在していても、君達に知られると不都合なものは消滅させることもできる』
「なっ!」
信也が語った真実に、望は疑問が氷解すると同時に戦慄させられた。
「吉乃信也よ、それはつまり、あの部屋は俺達に知られると不都合な場所だということだな」
「そのとおりだ」
有が抱いた疑問に、信也は肯定しつつもそれ以上は語らない。
その在り方は望にとっては到底許容できるものではなかった。
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