躍動する闇と槍の光が入り乱れる戦場を、イリスは凄まじい速度で駆ける。
彼女の繰り出す斬撃は早く鋭く、回避しようと振り切ったニコットをいとも容易く切り裂いていく。
「ニコットちゃん、いつからついて来ていたの?」
「お答えできない内容と判断します」
花音の問いを、ニコットは即座に受け流した。
敵対的な雰囲気を持っているわけではないが、友好的な雰囲気というわけではない。
ニコットはただ自然に隙もなく、イリスからの攻撃を捌いている。
「ニコットはこのまま、手嶋賢様の指示どおり、指令を続行します」
「随分と余裕ですね」
ニコットの言葉に呼応するように、気迫の篭ったイリスの声が響き、行く手を遮るモンスター達が次々と爆ぜていった。
「ニコットの目的は、美羅様と特殊スキルの使い手をシンクロさせることです」
「あくまでも目的は、望と愛梨とのシンクロか」
ニコットの意味深な発言に、奏良はインターフェースを操作して、機械人形型のNPCであるニコットの情報を表示させた。
周囲の様子を窺っていたプラネットは、真剣な眼差しで有を見つめる。
「有様。このまま、『這い寄る水晶帝』に居るのは危険だと判断します」
「プラネットよ、分かっている」
プラネットの懸念に、有はインターフェースを使って、クエストの提供元である高位ギルドの情報を検索する。
新興に当たる高位ギルドであり、『レギオン』の傘下のギルドである『カーラ』。
そして、特殊スキルの使い手達とシンクロさせて、美羅と同化したリノアの真なる力の発動を狙う高位ギルド、『レギオン』。
『アルティメット・ハーヴェスト』の協力があるとはいえ、全てを判断し、対処していくのは困難極まりないだろう。
有は今回、表立って、現実世界を改変してきた二大高位ギルドの情報を改めて吟味した。
「有。『アメジスト』の素材を回収できるモンスターの情報について知りたい。素材さえ、手に入れてしまえば、このダンジョンに用はない。すぐにダンジョン脱出用のアイテムを使って立ち去ろう」
奏良は腕を組んで考え込む仕草をすると、高位ギルドの情報を物言いたげな瞳で見つめる。
「ああ。奏良よ、肝心のモンスターはーー」
「そのモンスターの出現は、ニコット達、『レギオン』によって制限を設けています」
有の意向に応えるように、ニコットは淡々と告げる。
『レギオン』が、対象のモンスターの出現を制限しているのかーー。
周囲を警戒していた勇太は、心を落ち着けるようにしてから話を切り出した。
「このダンジョンもやっぱり、『レギオン』と『カーラ』の手によって管理されているのか?」
「ああ、恐らくな」
勇太の懸念に、徹は素っ気なく答える。
「望達に紹介したクエストは、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達が提示したクエストの中で、比較的に安全が保証されているものを選んでいる。ダンジョン調査も、その一つだ。ただ、プロトタイプ版の運営は、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っているからな」
徹の胸中に様々な想いがよぎった。
「運営側の権限。つまり、事前情報だけでは対応出来ないのか」
「運営側の権限。つまり、事前情報だけでは対応出来ない」
「ああ」
望とリノアの確信に近い推察に、徹は肯定の意を込めて頷いた。
「だけど、このダンジョンは『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄下になっている。前みたいに『レギオン』と『カーラ』の集団が訪れても、俺達が対処してみせるからな」
徹は少しでも安心させるように、望達の気持ちを孕んだ行動へと移す。
「僕達は、護衛クエストのダンジョンの方で待ち伏せを受けると思っていた。だが、『レギオン』と『カーラ』は、望達が訪れるダンジョンなら、どこにでも現れるみたいだな」
もっとも恐れていた事態の到来に、奏良は悔しそうに言葉を呑み込む。
「有。他のギルドメンバーの存在は分からないのか」
「何処かで身を潜めているのか、もしくはニコットが単独で来たのか、こればかりは調べてみないと分からないな」
奏良の懸念に、有はプラネットに目配せする。
彼女の能力で、ギルドメンバーの居場所を割り出そうとしたのだ。
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