「残念ですが、その攻撃は通じません」
イリスは槍を構え直すと、ニコットが放ったダガーを捌いていく。
しかし、その間隙を突いて、ニコットが再び、数本のダガーを投げる。
認識も意識もしているのに反応しても間に合わないーーそんな致命的な攻撃は別の者が対処した。
「イリス様!」
一瞬前までいなかったプラネットが持ち前の瞬発で駆けつけ、イリスを付け狙ったダガーの軌跡を捌いたのだ。
「イリス様、良かったです」
「……感謝します」
恭しく頭を下げるプラネットを見て、槍を携えたイリスは毅然とした態度で物怖じせずに言う。
長く赤みがかかった黄金色の髪を揺らし、人形のように整った顔立ちをした彼女は、紺碧の瞳をまっすぐプラネットに向けてくる。
戦闘の喧騒の中、二人だけ時間が止まってしまったかのように視線が交錯した。
「同じNPC同士、力を合わせていきましょう」
「私達NPCは、マスターに従うまでです。それ以上でもそれ以下でもありません」
ほんわかな笑みを浮かべて言うプラネットを見て、イリスは剣呑の眼差しを返す。
「イリスは相変わらず、他のNPCに対して厳しいな」
「……プラネットさんには感謝しております。ですが、徹様、私は自分の考えを改めるつもりはありません」
徹の気楽な振る舞いに、イリスはプラネットを一瞥し、あくまでも自身の信念を貫き通した。
不可解な空気に侵される中、花音が二人の間に割って入る。
「もう、プラネットちゃん、イリスちゃん! 望くんと愛梨ちゃんとリノアちゃんのために、二人で仲良く守ろうよ!」
「はい」
「仲良くはともかく、必ずお守り致します」
花音のどこか確かめるような物言いに、プラネットが嬉しそうに、イリスは不快そうに顔を歪める。
気まずげな雰囲気が漂う中、有は改めて切り出した。
「徹、そしてイリスよ、助かった」
「ああ」
有が代表して感謝の意を述べると、徹は照れくさそうに答える。
「この状況から脱するために力を貸してほしい」
「ああ。まずは、吉乃かなめをどうにかしないとな」
「もちろんです」
有の発言に、徹とイリスはそれぞれの表情で応える。
そこで鞭を構えた花音が不思議に首を傾げた。
「プラネットちゃん、何だか嬉しそうだね?」
「イリス様に初めて、名前を呼んで頂きました」
プラネットは表情を綻ばせると、イリスが発したその一言一句を胸に刻む。
イリスがどのような意味合いで言ったのかは解らない。
単純に言葉どおりの意味だったのかもしれない。
だが、イリスの言葉は、プラネットには額面以上の重みがあった。
イリスは思っていた以上に、同じNPCである自分のことを近しく感じてくれていた。
プラネットにとって、それは思いがけない喜びだった。
プラネットは居住まいを正して、真剣な表情で望達に尋ねる。
「マスター、リノア様。私とイリス様で、この状況の活路を切り開いてみようと思っています。よろしいでしょうか?」
「……ああ。プラネット、頼むな」
「……うん。プラネット、頼むね」
「プラネットちゃんの想い、きっといつかイリスちゃんに伝わるよ」
望とリノアが言い繕うのを見て、花音は追随するようにこくりと首を縦に振った。
しかし、その様子を窺っていたニコットは単なる事実の記載を読み上げるかのような、低く冷たい声で宣告する。
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