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留菜マナ
留菜マナ

第ニ百五十三話 氷水晶のレクイエム①

公開日時: 2021年5月29日(土) 16:30
文字数:1,792

「お兄ちゃん、これからどうするの?」

「妹よ、今はここから逃げることが先決だ。あのモンスターを助けるためにも、まずは敵の位置を把握しなくてはならないからな」

「うん」


改めて、これからのことを確認する有の言葉に、花音は勇ましく点頭してみせる。


「徹様。ここから先に、新たなモンスターの気配を感じます」

「このダンジョンで呼び出すことができる使い魔を、既に召喚して配置いるのかもしれないな」


プラネットの思慮に、徹は複雑そうな表情で視線を落とすと、熟考するように口を閉じる。


「前方に使い魔、後方に『レギオン』のギルドメンバーか。囲まれているのなら、奇襲は出来ないな。何らかの対策を立てる必要がある」

「ああ」


奏良の危惧に、有は深々とため息を吐いた。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力である特殊スキル。

望とリノアの剣に特殊スキルの力が発動しているとはいえ、待ち構えているモンスターは、『レギオン』のギルドメンバー達の人数分は居ると考えていいだろう。


「活路を見出せないな」

「活路を見出せないね」


望とリノアは剣を構えたが、包囲の一角を切り崩す術は見つからない。


「妹よ、前に使った『クロス・バースト』は、このダンジョンの場合、発動までどのくらいの時間が掛かる?」

「そんなに時間は掛からないと思うよ」


有の問いかけに、花音は自分のスキルの発動時間を踏まえながら答える。


「『レギオン』の不意を突くかたちで、『元素復元、覇炎トラップ』を使うタイミングを図る必要があるな」

「お兄ちゃん。私はモンスター達に対して、天賦のスキルを使うね」


有と花音は議論を交わしながら、それぞれの意気込みを語った。

敢えて、周囲に居る『レギオン』のギルドメンバー達に聞こえるように声高に作戦を述べる。


「何のつもりだ……?」


その益体もない行為に、追跡していた『レギオン』のギルドメンバー達は警戒を強める。

その時、何者かが近づいてくる足音がした。

しかし、振り返っても誰もいない。


「誰だ?」


『カーラ』のギルドメンバーの一人が怒涛の勢いで叫ぶ。

だが、返事は返ってこない。

しかし、次の瞬間、『レギオン』のギルドメンバーの一人は息を呑んだ。

望達とともに居たはずの勇太が自身に対して、大上段から大剣を振り落とす姿を目の当たりにしたからだ。


『フェイタル・トリニティ!』


勇太は、『カーラ』のギルドメンバー達の不意を突くようなかたちで大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、『レギオン』のギルドメンバー達を襲う。


「なっーー」


視線を誘起された『レギオン』のギルドメンバーの一人は、その不慮の一撃をまともに喰らう。

その瞬間、『レギオン』のギルドメンバーの一人は体力を失い、そのまま、この仮想世界から消えていった。

光を纏った大剣が、周囲にいた『レギオン』のギルドメンバー達さえも攻撃ごと吹き飛ばす。


「行くぜ!」


一網打尽とまではいかなかったが、勇太は次々と『レギオン』のギルドメンバー達を薙ぎ倒していく。


「よーし、私達も行くよ!」


裂帛の咆哮とともに、花音は力強く地面を蹴り上げた。

望達は、『レギオン』のギルドメンバー達と使い魔達に囲まれているという絶望的な状況を打破するために賭けに出た。

それは徹からの指示により、『這い寄る水晶帝』の入口にいる『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達に協力を求めることで、『レギオン』、高位ギルドの猛攻に対抗していくというものだった。


「望くんとリノアちゃんに手出しはさせないよ!」

「うわっ!」

「くっ!」


率先して先手を打った花音は身を翻しながら、鞭を振るい、『レギオン』のギルドメンバー達を翻弄する。


「恐らく、『這い寄る水晶帝』の入口に到達することが、脱出への近道になりそうだな」

「……有。これから調査に向かうダンジョンは、もはや中級者用ダンジョンとは思わない方が良さそうだ。上級者用ダンジョンだと考えた方がいいと思う」


有の方針に、奏良は突如、襲いかかってきた使い魔ーーモンスター達を威嚇するように発砲しながら苦言を呈した。

有の表情が硬く強張ったのを見て、奏良は付け加えるように続ける。


「だが、『レギオン』と『カーラ』の介入は想定内だ。ただ、吉乃信也と吉乃かなめが『カーラ』のギルドホームにいるという話は鵜呑みしない方がいいな」

「そうだな」

「そうだね」


奏良の疑念に、望とリノアも頷き、警戒を強めた。

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