信也は一毅も美羅もお節介焼きだという思いを、せめて今だけは口にする。
それそのものを願いにはできないのなら、せめてもの、と。
想いを形にすることが出来ないから。
今はもういない彼女ーー美羅のために、この世界が創られたというのなら、私の役割はただ一つーー。
「君達をこの場に留めておくことだ」
信也の狙いは変わらず、美羅から授かった『明晰夢』の力を行使して望と愛梨を捕らえることだ。
逆にそれを利用すればいいという望達の結論さえも、信也の意思を突き動かす。
椎音愛梨に特殊スキルを使わせるーー。
その絶対目的を叶えるために、賢達は最善な方法を模索してきた。
だが、賢達が如何(いか)にあらゆる策を弄(ろう)しても、紘の特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』によって見抜かれてしまう。
しかも、現実世界が理想の世界へと変わり、美羅の特殊スキルの力が働いた今でもプライバシー制度は行われている。
それは紘達、『アルティメット・ハーヴェスト』が、『レギオン』と『カーラ』から愛梨とリノアを守るために行っていることだった。
信也は一拍だけ間を置くと、厳かにーーまるで神事を執り行う祭司の如く言った。
「なら、私達と君達、どちらの想いが上か決着をつけようか」
晴れやかな表情さえ浮かべて、信也はそう告げる。
「私が望むのは本当の意味での仮想世界、そして現実世界、世界の全ての安寧」
壮大な計画を発する信也の声が、望達の耳朶(じだ)に否応なく突き刺さった。
「美羅の特殊スキルの力によって、それはほぼ成されている。私達もまた、『明晰夢』の力を授かった。だが、まだ、一手足りない」
信也の発した言が街道に静かに木霊した。
「美羅がいれば、私達の求めている理想の世界はこのまま実現し続ける。だが、その理想を永続的に成し得るためには美羅が椎音愛梨の特殊スキルを使用しなくてはならない。今の世界では私が望む真の安寧には程遠い」
「それが、先生の狙いか……」
勇太は乱れた心を落ち着かせるように、大剣を強く握りしめた。
勇太のMPは潰えている。
有効打に繋がる攻撃は放つことはできないだろう。
しかしーー
「先生……いや、吉乃信也とはここで決着をつけてみせる!」
勇太は好機を作るために信也目掛けて疾走する。
ソロプレイヤーの時は、ただ闇雲に突っ走るだけだった。
だが、有達のギルド『キャスケット』に加入した事で、勇太の視界は広がった。
誰かと共にあるという意識は、追いつめられていてもなお、決して自分達が負けることはないという不屈の確信をかきたてるものだと喚起させる。
『キャスケット』というギルドの存在は、望達にとって希望を表している。
その事実は、望達の心に厳然たる現実として刻まれていた。
その証左に、望達は『キャスケット』を通じて、多くの人達に出逢ってきたのだから――。
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