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留菜マナ
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第四百七十一話 あの世界を生きた君は今②

公開日時: 2024年4月19日(金) 16:30
文字数:960

「なら、俺達がリノア達の道を切り開くだけだ!」

「「勇太くん」」


勇太の決意に、望とリノアは躊躇うように応える。


「今度こそ、絶対にリノアを救ってみせる!」


勇太は両手で大剣を構えると、信也と向き合った。

勇太が今、対峙するべきは、迫る眼前の脅威だ。

そして、『レギオン』と『カーラ』への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。


「行くぜ!」


断定する形で結んだ勇太は、目の前の敵に向かって駆けていった。


『エアリアル・アロー!』


さらに奏良が援護するように魔術を唱えると、無数の風の矢が一斉に『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達へと襲いかかった。


「ーーっ!」


放たれた風の矢を、上体をそらすことでかわした『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は、視界を遮る風圧に反撃の手を止める。


『エアリアル・クロノス!』


その隙に、奏良は風を身体に纏わせて飛翔した。

望達も、風に引っ張られるように空に浮かぶ。


「よし、奏良よ。このまま、この部屋の上部に向かうぞ!」

「部屋の中で、空を飛ぶのってすごいねー!」

「すごいのか……?」

「すごいの……?」


有と花音が楽しそうにしている中、望とリノアは表情を凍らせていた。

インターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを確認しながら、有は拳を掲げて宣言する。


「行くぞ! この部屋の最上部へ!」

「空を飛んで行くのか」

「空を飛んで行くの」


望とリノアの疑惑が届くこともないまま、望達は最上部を目指して浮上していった。

しかし、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達が新たに召喚した飛行モンスター達が目前に迫ってくる。


「お兄ちゃん、空を飛んだことが裏目に出たよ!」

「心配するな、妹よ。想定内だ」


慌てる花音の声を遮り、有は杖の先端を壁にぶつけた。

有の杖が壁に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

壁の一部分が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。

壁の一部分が消えたことで、その直撃を受けた壁には大きな亀裂が入る。


「この部屋の壁の一部の元素では、回復アイテムを一つ作るくらいが関の山だな」


有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見ていた。

ひび割れた壁。

呆気に取られる『カーラ』のギルドメンバー達を視界から逸らして、望達はこの部屋の最上部へと向かう。

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