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留菜マナ
留菜マナ

第五十七話 天空の回廊②

公開日時: 2020年11月30日(月) 07:00
文字数:1,602

作戦も万策が尽きた。

いや、恐らく、二大高位ギルドに対しては、どの作戦も有効ではないだろう。

完膚なきまで叩き潰すために攻勢を強めてきた『カーラ』のギルドメンバー達を前にして、望達は迎撃態勢に入る。


「失いたくない」


剣を構えた望は、高らかにつぶやいた。


「みんなを守りたい……!」


『カーラ』のギルドメンバー達の猛攻を前に、剣は弾かれ、望は吹き飛ばされる。

それでも、望は剣を支えに立ち上がった。


みんなを守る力がほしいーー。


それは、望自身のスキルを使えば叶うと信じている。

望の想いに、望自身でもある愛梨は応えてくれるはずだ。

望は必死に、『カーラ』のギルドメンバー達と戦っている花音達のもとへと進んでいった。

戦う術はないのかもしれない。

二大高位ギルドから逃れる方法なんて分からない。

それでも、望は諦めなかった。


『……『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』』


不意に愛梨の声が聞こえた。

それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の声。


「ああ、そうだな。俺はーーいや、俺達は諦めない!」


顔を上げた望は、胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。

『カーラ』のギルドメンバー達を見据えて、望はこの世界で、たった一つだけの自身のスキルを口にする。


『魂分配(ソウル・シェア)!』


そのスキルを使うと同時に、望の視界は靄がかかったように白く塗り潰されていく。

身体の感覚も薄れて、まるで微睡みに落ちるようだった。


ーーまた、あの時のように、愛梨と入れ替わるみたいだな。


遠くなる意識の中、望はただ、そう思った。

そして、望の意識が途絶えたーーその瞬間、望の身に変化が起きる。

光が放たれると同時に、腰まで伸びた透き通るようなストロベリーブロンドの髪がたなびく。

病的なまでに白い肌。

穢れなき白を基調したドレスは、愛らしいフリルと金糸の刺繍で上品に彩られている。

まるで物語の中の眠り姫のような出で立ちに、一目で人を惹き付けるほどの美貌。

光が消えると、そこには望ではなく、愛梨が立っていた。


『……仮想概念(アポカリウス)』


その声は、静かに場を支配した。

空気が変わる。

愛梨は甘く冷めた表情のまま、自身のスキルを用いて骨竜と召喚したモンスター達が宿していた光を全て消滅させた。


「ーーっ!」


想定外の光景を前にして、かなめは思わず刮目してしまう。

手で打ち払ったり、魔術を用いて、かなめの魔術を解除したわけではない。

愛梨は文字どおり、自身のスキル名を口にしただけで、その再生能力の効果をなかったことにしてしまった。


「かなめ様の魔術を解いただと?」

「女神様の基礎となった特殊スキルの使い手。私の魔術を解くことなど、たわいもないのでしょう」


『カーラ』のギルドメンバー達の疑問に捕捉するように、かなめは軽やかにつぶやいた。


「椎音愛梨、そして、蜜風望。女神様の完全な覚醒のために、おまえ達を頂きます」

「…………っ」


かなめは前に進み出ると、あくまでも事実として突きつけてきた。

かなめの存在に気づいた愛梨は息を呑み、驚きを滲ませる。


「かなめ様!」

「……だ、誰」


かなめだけではなく、『カーラ』のギルドメンバー達まで近づいてくると、愛梨は怯えたようにあたふたと視線を泳がせた。


「お兄、ちゃん、徹くん、どこ?」


愛梨は耳を塞ぎ、小さな肩を震わせて、まるで瞳に映る全てのものを否定するように深く俯いていた。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


その時、愛梨の存在に気づいた骨竜が跳躍し、一気に愛梨に迫る。


「愛梨に手を出すな!」


奏良は愛梨の前に立つと、絶え間なく弾丸を撃ち、骨竜の気を逸らそうとする。

数十発の風の弾が骨竜の顔面に衝突し、大きくよろめかせた。


「愛梨に手を出させないからな!」


徹がそう叫ぶと、光龍はそれに応えるように重い唸りを上げて骨竜に襲いかかった。

一筋の閃光が空を切り裂いて、骨竜を大きく吹き飛ばす。

愛梨の特殊スキルによって、再生能力を失った骨竜は苦悶の叫び声を上げた。

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