『我が声に従え、ララ!』
「ーーなっ!」
「ーーえっ!」
望とリノアの驚愕と同時に、望達の目の前に光輝く精霊が現れる。
「ララ、モンスター達の動きを止めろ!」
「了解!」
金色の光を身に纏った人型の精霊。
妖精達とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。
「道を開けてもらうわよ!」
ララは浮遊したまま、三体のモンスター達の行く手を塞いだ。
しかし、モンスターの一体が先手必勝とばかりに、ララに襲いかかる。
「そんな攻撃、意味ないわよ」
だが、それが放たれるよりも先に、ララは電光石火の早業で光の檻を生成させた。
モンスター達の逃げ道を塞ぐように、四方形の光の壁が具現化する。
「これで、しばらくは動けないよ」
モンスター達の咆哮をよそに、ララは得意げに腰に手を当てた。
ララは飛来して、徹の前で無邪気に笑う。
「徹。あたし、頑張ったよ」
「ララ、ありがとうな」
「えへへ……」
徹の称賛に、ララは嬉しそうに赤らんだ頬にそっと指先を寄せる。
「「よし、このまま、先に進もう」」
「うん」
先行した望とリノアに付き添うように、花音は同意した。
フロアの探索を滞りなく終え、有達がいないことを確認する。
そのタイミングで、花音は周囲を警戒しながら望に尋ねた。
「ねえ、望くん。リノアちゃんがいる時でも、蒼の剣に特殊スキルの力を込められないかな?」
「試してみるか。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」
「試してみるね。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」
花音の疑問に応えるように、望とリノアは自身のスキルを口にする。
だが、何も起こらない。
状況がいまいち呑み込めず、望とリノアは苦々しい顔で眉をひそめた。
「変化なしか」
「変化なしね」
「そうなんだね」
赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望とリノアはそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。俺の想いに愛梨が応えた場合、愛梨と入れ替わる。そして逆に、愛梨の想いに俺が応えた場合、蒼の剣が力を増すことになる。それは、リノアがいる時でも変わらないはずだ」
「花音。私の想いに愛梨が応えた場合、愛梨と入れ替わる。そして逆に、愛梨の想いに私が応えた場合、蒼の剣が力を増すことになる。それは、私がいる時でも変わらないはずだから」
「……望くんの想いと愛梨ちゃんの想い?」
望とリノアの説明を聞いて、花音は不思議そうに首を傾げる。
望とリノアは一呼吸置いて、静かに互いの剣を構えた。
みんなを守る力がほしいーー。
それは、望自身のスキルを使えば叶うと信じている。
望とリノアは目を閉じて、愛梨の想いに応えようとした。
愛梨の想いに応える術はないのかもしれない。
今、この場で、特殊スキルを使うことができるとは限らない。
それでも、望は諦めなかった。
『……みんなの力になりたい』
不意に愛梨の声が聞こえた。
それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の想い。
「ああ、そうだな。俺はーーいや、俺達は諦めない!」
「うん、そうだね。私はーーいや、私達は諦めない!」
顔を上げた望とリノアは、胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。
望とリノアは前を見据えて、この世界で、たった一つだけの自身のスキルを口にする。
『『魂分配(ソウル・シェア)!』』
そのスキルを使うと同時に、それぞれの剣からまばゆい光が収束する。
二人の剣からは、かってないほどの力が溢れていた。
望とリノアが剣を掲げると、さらなる輝きを発する。
「望くん、リノアちゃん、すごーい!」
「上手く使いこなせるかは分からないけれどな」
「上手く使いこなせるかは分からないけれどね」
花音の言い分に、望とリノアは少し逡巡してから言った。
その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。
「リノアちゃんがいる時も、特殊スキルは問題なく使えるんだね」
「ああ」
「うん」
花音の咄嗟の疑問に、望とリノアは戸惑いながらも答えた。
「わーい! 望くん、リノアちゃん、すごーい!」
「花音、ありがとうな」
「花音、ありがとう」
喜色満面で喜び勇んだ花音の姿を見て、望とリノアは苦笑する。
特殊スキルを使った望達は、有達がいるフロアを目指して、さらに上層へと階段を上がっていく。
「「ここは?」」
階段を上がり、望達が散発的に遭遇するモンスター達を倒しながら進んでいると、やがて広いフロアに出る。
「「みんな!」」
「お兄ちゃん!」
「望、勇太、リノア、徹、妹よ。無事だったようだな!」
先程と違うフロアには、有達がモンスター達と戦闘を繰り広げている姿があった。
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