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留菜マナ
留菜マナ

第ニ百四話 境界の魔術士⑧

公開日時: 2021年4月10日(土) 16:30
文字数:1,861

『我が声に従え、ララ!』

「ーーなっ!」

「ーーえっ!」


望とリノアの驚愕と同時に、望達の目の前に光輝く精霊が現れる。


「ララ、モンスター達の動きを止めろ!」

「了解!」


金色の光を身に纏った人型の精霊。

妖精達とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。


「道を開けてもらうわよ!」


ララは浮遊したまま、三体のモンスター達の行く手を塞いだ。

しかし、モンスターの一体が先手必勝とばかりに、ララに襲いかかる。


「そんな攻撃、意味ないわよ」


だが、それが放たれるよりも先に、ララは電光石火の早業で光の檻を生成させた。

モンスター達の逃げ道を塞ぐように、四方形の光の壁が具現化する。


「これで、しばらくは動けないよ」


モンスター達の咆哮をよそに、ララは得意げに腰に手を当てた。

ララは飛来して、徹の前で無邪気に笑う。


「徹。あたし、頑張ったよ」

「ララ、ありがとうな」

「えへへ……」


徹の称賛に、ララは嬉しそうに赤らんだ頬にそっと指先を寄せる。


「「よし、このまま、先に進もう」」

「うん」


先行した望とリノアに付き添うように、花音は同意した。

フロアの探索を滞りなく終え、有達がいないことを確認する。

そのタイミングで、花音は周囲を警戒しながら望に尋ねた。


「ねえ、望くん。リノアちゃんがいる時でも、蒼の剣に特殊スキルの力を込められないかな?」

「試してみるか。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」

「試してみるね。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」


花音の疑問に応えるように、望とリノアは自身のスキルを口にする。

だが、何も起こらない。

状況がいまいち呑み込めず、望とリノアは苦々しい顔で眉をひそめた。


「変化なしか」

「変化なしね」

「そうなんだね」


赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。

すると、望とリノアはそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。


「花音。俺の想いに愛梨が応えた場合、愛梨と入れ替わる。そして逆に、愛梨の想いに俺が応えた場合、蒼の剣が力を増すことになる。それは、リノアがいる時でも変わらないはずだ」

「花音。私の想いに愛梨が応えた場合、愛梨と入れ替わる。そして逆に、愛梨の想いに私が応えた場合、蒼の剣が力を増すことになる。それは、私がいる時でも変わらないはずだから」

「……望くんの想いと愛梨ちゃんの想い?」


望とリノアの説明を聞いて、花音は不思議そうに首を傾げる。

望とリノアは一呼吸置いて、静かに互いの剣を構えた。


みんなを守る力がほしいーー。


それは、望自身のスキルを使えば叶うと信じている。

望とリノアは目を閉じて、愛梨の想いに応えようとした。

愛梨の想いに応える術はないのかもしれない。

今、この場で、特殊スキルを使うことができるとは限らない。

それでも、望は諦めなかった。


『……みんなの力になりたい』


不意に愛梨の声が聞こえた。

それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の想い。


「ああ、そうだな。俺はーーいや、俺達は諦めない!」

「うん、そうだね。私はーーいや、私達は諦めない!」


顔を上げた望とリノアは、胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。

望とリノアは前を見据えて、この世界で、たった一つだけの自身のスキルを口にする。


『『魂分配(ソウル・シェア)!』』


そのスキルを使うと同時に、それぞれの剣からまばゆい光が収束する。

二人の剣からは、かってないほどの力が溢れていた。

望とリノアが剣を掲げると、さらなる輝きを発する。


「望くん、リノアちゃん、すごーい!」

「上手く使いこなせるかは分からないけれどな」

「上手く使いこなせるかは分からないけれどね」


花音の言い分に、望とリノアは少し逡巡してから言った。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「リノアちゃんがいる時も、特殊スキルは問題なく使えるんだね」

「ああ」

「うん」


花音の咄嗟の疑問に、望とリノアは戸惑いながらも答えた。


「わーい! 望くん、リノアちゃん、すごーい!」

「花音、ありがとうな」

「花音、ありがとう」


喜色満面で喜び勇んだ花音の姿を見て、望とリノアは苦笑する。

特殊スキルを使った望達は、有達がいるフロアを目指して、さらに上層へと階段を上がっていく。


「「ここは?」」


階段を上がり、望達が散発的に遭遇するモンスター達を倒しながら進んでいると、やがて広いフロアに出る。


「「みんな!」」

「お兄ちゃん!」

「望、勇太、リノア、徹、妹よ。無事だったようだな!」


先程と違うフロアには、有達がモンスター達と戦闘を繰り広げている姿があった。

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