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留菜マナ
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第五百十八話 美羅の定義①

公開日時: 2024年9月30日(月) 16:30
文字数:1,057

その紘の言葉に呼応したように、有は決意を固める。


「『レギオン』と『カーラ』の者達の動きが加速するということは再び、望と愛梨、そしてリノアに危険が及ぶかもしれない。もはや、猶予はないようだ。まずは美羅の残滓を介して、機械都市『グランティア』に赴く必要があるな」

「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。そもそも、今は愛梨とリノアを守り抜いたばかりだ。この状態で行っても、機械都市『グランティア』に赴いた瞬間、返り討ちに遭うのが目に見えている」


有の提案に、奏良は懐疑的である。

だが、それでもこの状況を打破するためには、それしかないと奏良は悟った。


「機械都市『グランティア』は敵の本拠地だ。入念に準備してから乗り込むべきだ」

「いよいよ、機械都市『グランティア』に乗り込んだね」


赤みがかかった髪を揺らした花音が、やる気満々で奮起する。


「愛梨ちゃん、大丈夫だよ」

「花音」

「一緒に頑張ろう」

「……うん」


花音が励ますように告げると、愛梨は恐る恐るうなずいた。


「大丈夫。絶対に大丈夫。愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」

「……うん」


両手を握りしめて言い募る花音に熱い心意気を感じて、愛梨は花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべる。

その様子を見守っていた徹が、屈託のない様子でつぶやいた。


「機械都市『グランティア』の戦いの行方は、俺達の想いの強さにかかっているのかもな」


理想に彩られた現実世界の中で、花音と愛梨の柔らかな笑顔だけが確かだった。

『キャスケット』と『アルティメット・ハーヴェスト』。

徹達の未来を変えてくれるかもしれない仲間達が、確かにそこにいた。






翌日、有の家に集まった望達は、携帯端末を操作して、『創世のアクリア』のプロトタイプ版へとログインする。

オリジナル版と同様に、目の前に広がる金色の麦畑や肌に纏わりつく風と気候も、まるで本物のように感じられた。

だが、有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並みは閉散としていて人気は少ない。

唯一、見かけるのはNPCである店員の姿だけだった。


「お兄ちゃん。今日は機械都市『グランティア』に行けるのかな?」

「妹よ。残念だが、徹のーー『アルティメット・ハーヴェスト』の連絡待ちになる。俺達だけでは、高位ギルドである『レギオン』と『カーラ』の者達に太刀打ちすることは厳しいからな」


花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。


「ああ。機械都市『グランティア』に赴けば、戦いが終わるまでここに戻ってこられないかもしれない」


望は咄嗟にそう言ってため息を吐いた。

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