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留菜マナ
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第五百五十六話 決着の時⑦

公開日時: 2025年1月14日(火) 16:30
文字数:1,154

美羅に真なる力を発動させるーー。


その絶対目的を叶えるために、賢達は最善な方法を模索してきた。

だが、賢達が如何(いか)にあらゆる策を弄(ろう)しても、紘の特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』によって全てを見抜かれてしまう。

だが、ニコットが仮想世界から姿を消したことにより、美羅に真なる力を発動させる手段は絶たれた。


「そうはさせません!」


その時、イリスが紘達を援護するように上空から槍を振り下ろす。

初速でいえばニコットには劣るその速度、しかしイリスの攻撃の神髄は此処から始まる。


「……っ!」


その初撃を剣で受け止めた賢はすぐに異変に気付く。


(ーー想像以上に速い)


イリスは槍を上下反転させると、すぐさま振り上げの第二撃を放つ。

賢がそれを受けると、すぐさま紘の猛攻に攻められる。

無数の甲高い衝突音と重い衝撃。

紘、そして上空を旋回するイリスの手は止まらない。

一瞬でいて、永遠のような交わり、その交錯は一向に止まらない。

紘達は緻密な連携と速度で、四方八方から攻勢をかけ続けた。

対する賢は防戦一方になる。


「はあっ!」


そこに特殊スキルの力が込められた剣で、モンスターを薙ぎ払っていた望が迫った。


「蒼の剣、頼む。みんなを守る力を!」


望は起死回生の気合を込めて、剣を中段に構えて前に踏み込みながら打ち込んだ。

だが、繰り出した望の攻撃は、ぎりぎりのところで、賢に回避されてしまう。


「ここまでのようだな……っ?」


望と同様に打ち込もうと一歩踏み込んだ賢は、瞬間の違和感に急制動をかける。


「させるか!」


その直後、勇太が追撃とばかりに斬撃を斬り込んできたからだ。


「なっ!」


間一髪で直撃を避けた賢は、一気に剣撃の間合いまで迫っていた勇太を見て驚愕する。

その間隙に、望は蒼の剣を高らかに掲げた。

そして、切に願う。


みんなを守る力がほしいーー。


それは望自身のスキルを使えば叶うと信じている。

望の想いに、望自身でもある愛梨は応えてくれるはずだからーー。


「俺はーーいや、俺達は愛梨を信じている!! 全てを終わらせるために、力を貸してほしい!!」


望の宣誓はまるで祈りを捧げるような願いだった。

だからこそーー


『……『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』』


不意に愛梨の声が聞こえた。

それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の声だった。


「ああ、そうだな。愛梨、一緒に戦おう!」


顔を上げた望は胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。

驚愕する賢を見据えて、望はこの世界でたった一つだけの自身のスキルを口にする。


『魂分配(ソウル・シェア)!』


そのスキルを使うと同時に、


『……仮想概念(アポカリウス)』


その声は静かに場を支配した。

戦場に漂う空気が変わる。

愛梨の特殊スキルーー仮想概念(アポカリウス)のスキル。

愛梨の力によって、望が握りしめている蒼の剣が虹色へと変色していく。

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