「あんな場所に部屋はなかったはずだ」
「マスター。この場所は恐らく、吉乃信也様が作戦の指揮を執っていた場所だと思われます」
望の率直な質問に、プラネットは律儀に答えた。
「吉乃信也が作戦の指揮を執っていた場所……。あの時、通信したり、遠隔操作で罠を設置していた場所かもしれないな」
リノアへの募る想いを抱きながらも、勇太もまた、その場所に目が止まった。
あの場所のことを吉乃信也に聞けば、何か分かるかもしれないな。
勇太は寂しげにそう思った後、悩みを振り払うように首を横に振った。
「……いや、分からなくてもいい。リノアを元に戻すためのきっかけが掴めればいいんだ!」
「勇太くん」
勇太の決意に、望は躊躇うように応える。
「今度こそ、絶対にリノアを救ってみせる!」
勇太は背負っている大剣を見据えると、改めて可視化されている『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンマップへと向き合った。
勇太が今、対峙するべきは信也だ。
そして、信也達への邪念よりも先に大切な幼なじみを守るという信念だった。
「俺は、吉乃信也にこのことを尋ねたい!」
「はい。リノア様を救う手がかりを掴めるかもしれません」
断定する形で結んだ勇太の申し出に応えるように、プラネットは笑顔で祝福した。
「よし。リノアを元に戻すために、吉乃信也にこのことを尋ねるぞ!」
「……有、君は全く効率的ではない。そもそも、吉乃信也が口を割らないから話し合いが難航しているのだろう。今回の件を問いただしても話すとは限らない」
有の意思表明に、奏良は懐疑的である。
だが、それでもこの状況を打破するためには、それしかないと奏良は悟った。
話し合いに折りをつけると、望達はひとまず、信也が捕らわれている場所へと足を進める。
「吉乃信也が作戦の指揮を執っていた場所か。そこに行くまでに、トラップが発動する可能性が高いよな」
「『飛行アイテム』や『モンスター避けのお香』がたくさん必要になりそうだね」
望の意見に、花音は以前、お店で購入したギルド専用のアイテム収集鞄に目線を向ける。
ギルド専用のアイテム収集鞄は、小型の鞄ながら武器なども収納できる優れものだ。
「『サンクチュアリの天空牢』に行くためには、『シャングリ・ラの鍾乳洞』から上空に飛べばいいんだよね」
「そうだな」
喜び勇んだ花音の意を汲むように、望は自身の考えを纏める。
「『サンクチュアリの天空牢』。調査対象のダンジョンの中でこのダンジョンが一番、危険度が高かったな」
「奏良よ、今回も『レギオン』と『カーラ』の者達が待ち伏せている可能性が高いな」
「そうですね」
奏良の言葉に、有とプラネットは同意する。
既に現実世界、仮想世界全域で、『レギオン』と『カーラ』の企みが社会の中枢にまで食い込んでいた。
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