一刻の猶予もならない状況の中、望の胸に様々な情念が去来する。
まずは吉乃信也にリノアを元に戻す方法、そして『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンについて尋ねなくてはならない。
そこから機械都市『グランティア』に赴く方法を見つけ出す。
そして、『創世のアクリア』のプロトタイプの開発者達の暗躍に備える必要がある。
望は頭の中に溢れる、これからおこなわないといけない情報を整理した。
正直、やることが多すぎて、手詰まり間が否めない。
「それにしても、プロトタイプ版のみに存在するダンジョンか」
複雑な心境を抱いたまま、望は『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンマップを改めて見る。
このダンジョンで作戦の指揮を執っていたのは信也とかなめの兄妹。
偶然にしては出来すぎている気がした。
『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームはまさに壮麗な白亜の塔だった。
城と呼ぶに似つかわしい規模の塔であり、豪華絢爛のような美しさを備えている。
「紘様、徹様」
牢の警護に当たっていたプレイヤー達が一斉に恭しく礼をする。
「これから吉乃信也と重要な話をする」
「吉乃信也を奪還するために『レギオン』と『カーラ』の襲撃があるかもしれないから警戒を怠らないようにな」
「承知致しました」
紘と徹の指示に、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達は丁重に一礼した。
望達は改めて信也がいる牢へと足を進める。
「今回、『レギオン』と『カーラ』の襲撃に備えていたが、愛梨を狙ってくることはなかった。王都『アルティス』は『アルティメット・ハーヴェスト』の本拠地。手を出しにくいのかもしれないな」
「奏良よ。恐らく、椎音紘が特殊スキルの力を用いて、どんな状況でも戦況を有利に進めるための手筈を踏んでいるのだろう」
奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。
「お兄ちゃん。それって愛梨ちゃんのお兄さんはいつも特殊スキルを使って、美羅ちゃんの特殊スキルと戦っているの?」
有の言葉に反応して、花音がとらえどころのない空気を固形化させる疑問を口にした。
「妹よ、恐らく、そうだろう。だからこそ、開発者達である『レギオン』と『カーラ』も、それに対抗するために『創世のアクリア』のプロトタイプ版の権限を使って、ダンジョンなどの内部を新たに再構築させているのだろう」
初めて出会った時のことを想起させるような状況に、有は切羽詰まったような声で告げる。
「特に今回はリノアが意識を失っている上に、手嶋賢と吉乃かなめが現実世界にいる。防衛に回った可能性が高いな」
「そうだな」
有の推測に、望は一息つくと事態の重さを噛みしめた。
そこで『創世のアクリア』の世界の真実に纏わる話は、一先ず終わりを告げる。
信也が収監されている牢へとたどり着いたからだ。
「この牢に……」
前を見据えた望は確かな決意を眸に込めた。
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