「愛梨、大丈夫だ」
「愛梨、俺達がついているからな」
「……うん」
紘と徹は周囲を警戒しつつ、愛梨とともに支度を済ませて家を後にする。
『創世のアクリア』のプロトタイプ版を産み出した四人の開発者ーー。
彼らが『救世の女神』を産み出すという禁忌を犯したことで始まった戦いは、仮想世界だけではなく、現実世界までも浸食していった。
漠然とした想いのまま、愛梨達は理想の世界へと変わった現実世界での日々を過ごしている。
「今日からしばらくの間、『レギオン』と『カーラ』の者達が愛梨に接触してくる危険性が高い」
「啓示どおりにならないためにも、小鳥にも愛梨のことを頼まないとな」
小鳥と待ち合わせしている駅に着いた紘と徹は、愛梨を連れ添って足早に人込みの中を進んでいく。
やがて、待ち合わせの時間を告げるアナウンスが辺りに聞こえる。
「そろそろ、来る頃合いだな」
「愛梨!」
徹がそう言った矢先、不意に少女の声が聞こえた。
声がした方向に振り向くと、少しばかり離れたコンビニで、ポニーテールの少女ーー木花小鳥が愛梨達の姿を見とめて何気なく手を振っている。
愛梨達の元へと駆けよってきた少女が柔らかな笑顔で言った。
「愛梨、おはよう」
「おはよう……」
小鳥が気兼ねなく挨拶すると、愛梨は戸惑いながらも応える。
「愛梨、無理はするなよな。何かあったら、すぐに携帯端末で知らせろよ」
「……うん」
徹の配慮に、愛梨は小さく頷いた。
心細そうな愛梨のもとまで歩み寄ると、紘は優しく微笑んだ。
「愛梨、大丈夫だ」
「……うん」
愛梨は寂しげにそう口を開いた後、何かを訴えかけるように自分の胸に手を当てる。
そのタイミングで、小鳥は誇らしげに宣言した。
「愛梨のお兄さん、心配しないで下さい。愛梨は、私達が必ず、守りますから」
その声は何故か囁きのように愛梨の耳を打った。
「愛梨を守る。それが私達に課せられた使命だから」
小鳥は胸に手を当てて穏やかな表情を浮かべる。
まるでそれが以前から定められたことのように、小鳥は告げたーー。
「今日は何か、ある、の……?」
小鳥の気迫に、愛梨は何かしらの不穏を感じ取る。
「今日だけではない。しばらくは警戒する必要がある。だが、大丈夫だ。二度と愛梨を死なせるわけにはいかない。苦しませるわけにはいかない。そのためなら、私は何でもする」
「お兄ちゃん」
紘の感情のこもった言葉。
だけど、ただ事実を紡いだだけの言葉。
愛梨の心を読み、その先を推測するような受け答えに、愛梨は強い懐かしさを覚える。
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