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留菜マナ
留菜マナ

第ニ百三十七話 そして、その日まで君を愛する①

公開日時: 2021年5月13日(木) 16:30
文字数:1,452

翌日、有の家に集まった望達は、携帯端末を操作して、『創世のアクリア』のプロトタイプ版へとログインする。

オリジナル版と同様に、目の前に広がる金色の麦畑や肌に纏わりつく風と気候も、まるで本物のように感じられた。

だが、有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並みは閉散としていて人気は少ない。

唯一、見かけるのは、NPCである店員の姿だけだった。

有の父親は出勤しているため、今日はログインしていない。


「お兄ちゃん。今日は『這い寄る水晶帝』に行くんだよね?」

「その通りだ、妹よ。ただ、『這い寄る水晶帝』に行った後、残りのダンジョンをどのような順番で攻略するのか、悩みどころだな」


花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。


「『サンクチュアリの天空牢』や『シャングリ・ラの鍾乳洞』の時のように、待ち伏せされているのは勘弁してほしい」


奏良は一昨日、起きた出来事を思い返して渋い顔をした。


「全てオリジナル版にもあるダンジョンとはいえ、僕達にはまだ、得体の知れないダンジョン。遭遇したら、どこまで二大高位ギルドと渡り合えるのか、判断がつかんな」

「敵に待ち伏せされるのは厄介だ。調査が終わったら、できる限り、早く立ち去った方がいいだろう」


奏良の懸念に、有は推測を確信に変える。


「とにかく、望、奏良、母さん、妹よ 。ギルドで今後、『這い寄る水晶帝』の後に向かうダンジョンについて調べるぞ!」」

「ああ」

「うん」

「そうだね」

「それしか、この状況を打破する手段はなさそうだからな」


有の方針に、望と花音と有の母親が頷き、奏良は渋い顔で承諾する。

目的が定まった望達は早速、ギルドへと足を運ぶ。


「マスター、おはようございます。リノア様が目覚めました」

「そうなんだな……」

「プラネットよ。恐らく、望がログインした事で、リノアもまた、連動したように目覚めたのだろう」

「わーい、プラネットちゃん!」


望達がギルドに入ると、リノアの事を任せていたプラネットが控えていた。

アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出している。

リノアの状況を聞いていたのも束の間、有は今後のことを思案した。


「プラネットよ、徹と勇太達は来ていないのだな?」

「はい、徹様と勇太様達からのご連絡は来ていません」


有の的確な疑問に、プラネットは訥々と答える。


「しばらく、連絡待ちか」


プラネットの報告に、奏良はカウンターに背を預けて、疲れたように大きく息を吐いた。


「調査対象になるダンジョンの情報は、どうなっているんだ?」

「『這い寄る水晶帝』を含めて、全てデータに纏めています」


奏良の質問に、プラネットは丁重に一礼する。

そのタイミングで、有は昨日から気がかりだった事を切り出した。


「プラネットよ、残りの調査対象のダンジョンはどのような順番で回ると効率が良くなる?」

「サモナークエストのダンジョン。アイテム生成クエストのダンジョン。探索クエストのダンジョン。最後に、護衛クエストのダンジョンの順に回ると一番、効率が良いと思われます」


有の鋭い問いに、プラネットは丁重に答えた。


「残りは全て、『サンクチュアリの天空牢』と同等の中級者ダンジョンになりますが、護衛クエストのダンジョンのモンスターは、他のダンジョンよりも上位クラスのモンスターになるみたいです」


プラネットは、人数分の紅茶を準備すると、丁重にテーブルに並べる。

望達は席に座ると、徹と勇太達が訪れるまでの間、次に向かうダンジョンを調べ始めた。

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