『奏良よ。『アルティメット・ハーヴェスト』から救援要請が入った。こちらでも『レギオン』と『カーラ』が愛梨に接触してくることがないように努めるつもりだ。愛梨を護るために意見を聞きたい』
内容は先程、紘が語っていた『レギオン』と『カーラ』についてのことだった。
有からの救援要請に関する連絡に、奏良は神妙な表情を浮かべる。
『そうだな。愛梨は美羅の真なる覚醒のための重要な要だ。それに吉乃信也と吉乃かなめは『創世のアクリア』のプロトタイプ版の開発に大きく関わっていたはずだ』
有から救援要請の顛末を聞き、奏良は痛ましげな表情を見せた。
『有。吉乃信也を捕らえたことで、現実世界でも『レギオン』と『カーラ』の動きが活発化しているかもしれないな』
『奏良よ、恐らくはそうだろう』
メッセージのやり取りを終えた後、奏良は改めて前方の愛梨達へと目を向ける。
「愛梨。まだ、現実の君に直接、会えないのなら、僕はこれからも君を守るためにできることをしていくだけだ」
奏良は蚊が鳴くような声でつぶやいて、携帯端末を強く握りしめた。
「それにしても、有はどうやって愛梨を護っていくつもりだ。下校時間だと、ここに着くのが夜になる可能性がある」
有達が通っている高校や中学校はここから離れている。
近くの高校に通っている奏良とは違い、すぐに愛梨のもとに駆けつけることはできないはずだ。
「まさか、僕に愛梨の護衛を全面的に任せるつもりじゃないだろうな」
確証はない。
だが、こういう時の嫌な予感は当たるものだ。
暗澹たる思いでため息を吐いた奏良は自身の高校へと足を向けた。
「この状況はまずいな」
放課後、有は妹が通う中学校の校門で花音が来るのを待っていた。
今朝、届いた『アルティメット・ハーヴェスト』からの救援要請に応えるためだ。
今日は愛梨が目覚めているため、望は高校を休んでいる。
有は花音と合流して愛梨のもとに向かう手筈だったのだがーー。
『お兄ちゃん、ごめんなさい。もう少し時間がかかりそうだよ』
『妹よ、分かった』
有は携帯端末に届いた花音のメッセージに返信する。
花音は学校関係の行事が長引いてしまったことで、待ち合わせ場所である校門に行くことができないようだった。
「ふむ。今から向かうと、愛梨達が住む街に着くのは夜になってしまうな。仕方ない。俺達が着くまで、奏良に愛梨の護衛を任せるしかないな」
有はそう結論づけると、今度は奏良にメッセージを送信する。
そんな不毛なやり取りを得て、奏良は『キャスケット』の代表として一人、愛梨の護衛に当たっていた。
「何故、こういう嫌な予感だけは当たるんだ……」
今朝、感じた言い知れない予感はもはや確信に近い。
帰宅途中の奏良は愛梨達と一定の距離を保ちつつも、不安を形にするように空を仰ぎ見た。
雲に占拠された空に雨の帳が降りる。
辺りはただ、重い沈黙だけが横たわっていた。
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