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留菜マナ
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第ニ百六十九話 燻る想い①

公開日時: 2021年6月14日(月) 16:30
文字数:1,333

「勇太くん、私を倒すのではないのか? 蜜風望との一騎討ちを所望していた私としては、このような戦いは不毛なのだがな」

「くっーー」


賢の攻撃が一層、激しさを増す。

対して、勇太は防御一辺倒になっていた。


ーー避ける暇がない!


弾くことも逸らすことも出来ず、勇太はただただ受け止める。

距離を取ることすらも出来ない。

そんな隙を見せたら、間違いなくその瞬間にやられるだろう。

対する賢は重畳(ちょうじょう)の戦いに口元を綻ばせた。


「徹様、加勢をーー」

「ニコットは、優先的に蜜風望達、『キャスケット』と交戦します。まずは、そのための妨害対象を排除します」


一連の流れを見ていたイリスが、険しい表情で行く手を塞いできたニコットを見つめる。


「それは、こちらの台詞です。彼らとともに今すぐ、ここから立ち去りなさい」

「お断りします。ニコットはこのまま、指令を続行します」

「そうですか……」


イリスの言葉に返ってきたのは、先程、交わした内容と同様の断固とした拒絶。

ニコットの戯れ言に、イリスは不満そうに表情を歪める。

そこで、イリスは『レギオン』のギルドメンバー達と、彼らによって呼び出されたモンスターを視界に収めた。


「あのモンスターは、あなた達が呼び出したモンスターですね?」

「その通りです」


距離を取ったイリスは、不満そうにニコットを睨みつける。

対するニコットは、望達に一瞥くれて応えた。


「どうやら、あのモンスターは、『レギオン』の召喚のスキルの使い手達が呼び出したモンスターのようだな」


周囲の有り様を見た有は固唾を呑む。

耳を劈(つんざ)く破壊音。

瓦礫の落下音。

大地が軋む音。

望達の会話が、全て掻き消されてしまうほどだ。

今まで対峙したボスモンスターを想起させるような桁違いの威力、凄まじい殺気に、望達は背筋が凍るような悪寒を感じていた。


「「はあっ!」」


起死回生を込めて、望とリノアの一撃が剣閃を煌めかせる。

しかし、モンスターの無数の触手がそれを捌き、望とリノアに追撃を放つ。


「望くん、リノアちゃん、ここは任せて!」


鞭を振るった花音が、望達に向かってくる攻撃を見据えた。


「花音、ありがとうな」

「花音、ありがとう」


花音のアシストを得て、望達の戦いは苛烈な領域へ突入していく。

花音の想いを糧にしたかのように、望とリノアの刃がさらに加速する。


「これなら、どうだ?」

「これなら、どう?」


望とリノアの一閃が、モンスターの触手を切り裂いていく。

それは望達、『キャスケット』が辿るであろう道の途上。


「これで終わりだ!」

「これで終わり!」


そこへ、軛(くびき)から解き放たれるように、望とリノアの更なる一閃が飛び出す。


『ガアッッーーーー!!!!』


一片の容赦もない二人の剣の一振りを受けて、モンスターは落下し、HPを大幅に減らす。

しかし、その瞬間、後方に控えていた『レギオン』の魔術の使い手達がモンスターのHPを回復した。


「お兄ちゃん。これじゃ、切りがないよ」

「妹よ。まずは『レギオン』を、何とかする必要がありそうだな」


花音の戸惑いに、有は杖を持つその手に力を込める。

勝算も根拠もない。

だが、剣を構えた望とリノアは前を見据えた。


望達、『キャスケット』。

誰かと共にあるという意識は、不屈の確信を掻き立てるものだと望は感じていた。


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