「勇太くん、私を倒すのではないのか? 蜜風望との一騎討ちを所望していた私としては、このような戦いは不毛なのだがな」
「くっーー」
賢の攻撃が一層、激しさを増す。
対して、勇太は防御一辺倒になっていた。
ーー避ける暇がない!
弾くことも逸らすことも出来ず、勇太はただただ受け止める。
距離を取ることすらも出来ない。
そんな隙を見せたら、間違いなくその瞬間にやられるだろう。
対する賢は重畳(ちょうじょう)の戦いに口元を綻ばせた。
「徹様、加勢をーー」
「ニコットは、優先的に蜜風望達、『キャスケット』と交戦します。まずは、そのための妨害対象を排除します」
一連の流れを見ていたイリスが、険しい表情で行く手を塞いできたニコットを見つめる。
「それは、こちらの台詞です。彼らとともに今すぐ、ここから立ち去りなさい」
「お断りします。ニコットはこのまま、指令を続行します」
「そうですか……」
イリスの言葉に返ってきたのは、先程、交わした内容と同様の断固とした拒絶。
ニコットの戯れ言に、イリスは不満そうに表情を歪める。
そこで、イリスは『レギオン』のギルドメンバー達と、彼らによって呼び出されたモンスターを視界に収めた。
「あのモンスターは、あなた達が呼び出したモンスターですね?」
「その通りです」
距離を取ったイリスは、不満そうにニコットを睨みつける。
対するニコットは、望達に一瞥くれて応えた。
「どうやら、あのモンスターは、『レギオン』の召喚のスキルの使い手達が呼び出したモンスターのようだな」
周囲の有り様を見た有は固唾を呑む。
耳を劈(つんざ)く破壊音。
瓦礫の落下音。
大地が軋む音。
望達の会話が、全て掻き消されてしまうほどだ。
今まで対峙したボスモンスターを想起させるような桁違いの威力、凄まじい殺気に、望達は背筋が凍るような悪寒を感じていた。
「「はあっ!」」
起死回生を込めて、望とリノアの一撃が剣閃を煌めかせる。
しかし、モンスターの無数の触手がそれを捌き、望とリノアに追撃を放つ。
「望くん、リノアちゃん、ここは任せて!」
鞭を振るった花音が、望達に向かってくる攻撃を見据えた。
「花音、ありがとうな」
「花音、ありがとう」
花音のアシストを得て、望達の戦いは苛烈な領域へ突入していく。
花音の想いを糧にしたかのように、望とリノアの刃がさらに加速する。
「これなら、どうだ?」
「これなら、どう?」
望とリノアの一閃が、モンスターの触手を切り裂いていく。
それは望達、『キャスケット』が辿るであろう道の途上。
「これで終わりだ!」
「これで終わり!」
そこへ、軛(くびき)から解き放たれるように、望とリノアの更なる一閃が飛び出す。
『ガアッッーーーー!!!!』
一片の容赦もない二人の剣の一振りを受けて、モンスターは落下し、HPを大幅に減らす。
しかし、その瞬間、後方に控えていた『レギオン』の魔術の使い手達がモンスターのHPを回復した。
「お兄ちゃん。これじゃ、切りがないよ」
「妹よ。まずは『レギオン』を、何とかする必要がありそうだな」
花音の戸惑いに、有は杖を持つその手に力を込める。
勝算も根拠もない。
だが、剣を構えた望とリノアは前を見据えた。
望達、『キャスケット』。
誰かと共にあるという意識は、不屈の確信を掻き立てるものだと望は感じていた。
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