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留菜マナ
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第ニ百五十一話 黄昏時の邂逅⑦

公開日時: 2021年5月27日(木) 16:30
文字数:1,466

スライムタイプのモンスターの体当たりを、花音は身体を反らし紙一重でかわす。


「あっ……」


サモナークエストで仲間にしたはずの使い魔からのの不意討ち。

完全に想定外の攻撃を受けて、花音は唖然とする。


「今だ!」


その隙を突いて、『レギオン』のギルドメンバー達のあらゆる属性の遠距離攻撃が花音を襲った。

投げナイフ、鎖鎌、ダガー、弓、魔術。

全てを確認することが、不可能なほどの攻撃が一斉に花音に殺到する。


「「花音、危ない!」」

「……の、望くん、リノアちゃん」


絶体絶命の危機を前にして、花音の前に出た望とリノアは全ての攻撃を受け止めようと、特殊スキルの力が込められた剣を構える。

飛び道具を流れるような動きで弾くと、望は迫ってきた近接攻撃と魔術の攻撃をいなした。


「……あれが、特殊スキルの力か」


全ての攻撃を凌ぎきった望とリノアを前にして、『レギオン』のギルドメンバーの一人が焦燥を抱く。


「あの力はいずれ、美羅様の力によって我々の手に入る。特殊スキルの使い手を捕らえろ!」


闊達(かったつ)豪放(ごうほう)な態度で、『レギオン』のギルドメンバーの男が指示する。

千差万別な武器を構え、『レギオン』のギルドメンバー達はゆっくりと望達に迫ろうとしたーーその時だった。


「多少のダメージは堪えろ」

「うわっ!」

「なんだ?」


望達に迫り来るプレイヤー達に合わせて、奏良が放った銃の弾が全方位に連射される。

放たれた弾は、対空砲弾のように相手の攻撃にぶつかり、『レギオン』のギルドメンバー達を怯ませた。


「マスターを渡すわけにはいきません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を迫ってきた『レギオン』のギルドメンバー達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

だが、倒すまでには至らない。

やがて、スライムタイプのモンスターは、花音から離れ、ニコットのもとに歩み寄っていく。


「あっ……待って!」

「待て、妹よ! そこから先は、罠が設置されている!」


杖を構えた有は、慌ててスライムタイプのモンスターのもとに駆け寄ろうとした花音を呼び止める。


「ーーっ!」


有の制止と同時に、疾走していた花音は強引に急制動をかけた。

その瞬間、花音の目の前で、凄まじい爆音とともに床が吹き飛んだ。

床の一部が吹き飛んだことで、その直撃を受けた場所には大きな亀裂が入る。


「妹よ。ここから先は、危険な罠が設置されている」


有は警告するように、花音を手で制した。


「『避雷針』。『カーラ』のギルドホームで仕掛けられていたものと同等の威力のものだ」

「えっー! お兄ちゃん、罠があるの!」


それは花音にとって、全く予想だにしていなかった言葉だった。


「ああ。また、浮遊物が通り過ぎた際にも爆破する危険な代物だ。恐らく、『レギオン』が前もって設置していたものだろう」


有が咳払いをして、落ち着いた口調で説明すると、奏良は身構えていた銃を下ろす。


「前もって設置か。プロトタイプ版の運営は、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っている。僕達が訪れた瞬間に合わせて、罠を発動させる事も出来るみたいだな」

「やっぱり、鞭を伸ばしても反応するのかな」


奏良の宣告に、様々な案を思考していた花音は不満そうな眼差しを向ける。


「望達に紹介したクエストは、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達が提示したクエストの中で、比較的に安全が保証されているものを選んでいる。ダンジョン調査も、その一つだ。ただ、プロトタイプ版の運営は、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っているからな」


周囲を見渡した徹は悔やむようにつぶやいた。

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