誰かと共にあるという意識は、追いつめられていてもなお、決して自分達が負けることはないという不屈の確信をかきたてるものだと喚起させる。
『キャスケット』というギルドの存在は、望達にとって希望を表している。
その事実は、望達の心に厳然たる現実として刻まれていた。
その証左に、望達は『キャスケット』を通じて、多くの人達に出逢ってきたのだから――。
盛り上がる望達を背景に、奏良は素っ気なく念押しする。
「みんな、少し場所をわきまえてくれ。敵の居場所が分からない状況で、作戦の打ち合わせをするのは危険極まりない」
奏良が耳を傾けると、周囲のプレイヤー達が雑談に興じていた。
モンスターの情報や、クエストについての噂、ダンジョンで手に入れた武器の自慢、あるいは現実での話を持ち込み、会話に花を咲かせている。
周囲の『アルティメット・ハーヴェスト』の者達の協力を得られるとはいえ、奇策を講じる信也は神出鬼没だ。
いまだ、姿を見せない信也に業を煮やしたように、奏良は冒険者ギルド内に視線を張り巡らせる。
「毎回、『レギオン』と『カーラ』の奇襲を受けて襲われるのは勘弁してほしいからな」
「もう、奏良くん! 愛梨ちゃんのために、吉乃信也さんを誘き寄せようよ!」
「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」
花音のどこか確かめるような物言いに、奏良は不快そうに顔を歪めた。
「何だ、奏良。勝てない勝負なら、諦めるのか? 確かに騒ぐ事で、俺達は囮役として機能しているかもしれないからな」
「……囮役」
有が神妙な面持ちで告げると、奏良は不意を突かれたように顔を硬直させる。
「囮か。なら、俺達が冒険者ギルド内で騒ぎを起こしている間に、外にいるイリア達に別の騒ぎを起こしてもらうな」
有が持ちかけた提案に、計らずも囮役を買って出た徹。
その途端、ギルド内に不穏な空気が流れた。
「そういえば君は、いつまでここにいるつもりだ?」
「望と愛梨を狙う吉乃信也を捕らえるまでだ!」
奏良が非難の眼差しを向けると、徹はきっぱりと異を唱えてみせる。
「今後も、君の出番はない。僕が愛梨を守るからな。ただひたすら、後方で援護してくれ」
「……おまえ、いつも一言多いぞ」
奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせた。
「これって、一体……」
信也の件で思い悩んでいた勇太は、予想外の騒動を目の当たりにしたことで唖然としてしまう。
すると、花音は悪戯っぽく目を細める。
「あのね、勇太くん。心配しなくても、大丈夫だよ。奏良くんと徹くん、愛梨ちゃんのためなら頑張るから、その気にさせているんだと思う」
「そ、そうなのか……」
探りを入れるような花音の言葉に、勇太は窮地に立たされた気分で息を詰めた。
「奏良、徹よ、そういうことだ。吉乃信也戦の主戦力は、おまえ達に任せる。もしかしたら、望を通して、愛梨におまえ達の活躍が伝わるかもしれないからな」
「分かった。愛梨のために、僕は吉乃信也だけではなく、『レギオン』と『カーラ』の襲撃にも備えよう」
「なっ! 愛梨は俺が守るからな!」
有に上手く丸め込まれている奏良と徹を見て、望は申し訳ない気持ちになる。
激しい剣幕で言い争う二人を背景に、望達の話し合いは着々と進められていった。
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