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留菜マナ
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第ニ百十ニ話 星が溶けた世界で⑧

公開日時: 2021年4月17日(土) 16:30
文字数:1,656

ベヒーモス達を薙ぎ払っていた望とリノアは、咄嗟に焦ったように言う。


「有、このままじゃ埒が明かない」

「有、このままじゃ埒が明かないよ」


望とリノアの指摘は、正鵠を射ていた。

かなめ達との戦いは、次第に劣勢になってきていた。


「奏良、プラネット、妹よ。このままでは、まずいぞ」


有達が後手に回るのを見計らって、『カーラ』のギルドメンバーの手によって次々と壁を作るようにモンスター達が召喚される。

壁のように迫り来る様は、まるで密集陣形のようだ。

四方八方から、ベヒーモスとモンスター達が望達へと襲いかかる。


「望くん達に手出しはさせないよ!」


花音は身を翻しながら、鞭を振るい、ベヒーモス達を翻弄する。

だが、それはほんのわずか、ベヒーモス達の動きを鈍らせただけで動きを止めるには至らない。

ゲームオーバーまでの時間を延ばしているだけだ。


「このままでは勝てないな」


迫り来る攻撃に合わせ、奏良は全方位に連射する。

ベヒーモス達を撃ち落としながら、奏良は事実を冷静に告げた。


「有様。ベヒーモス達の包囲によって、身動きが取れなくなってきています」

「プラネットよ、分かっている」


ベヒーモスに拳を振り下ろしたプラネットの戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。

だが、有達の視界は既に、ベヒーモス達によって埋め尽くされていた。


「ベヒーモス達に光の加護を付けられると厄介だな」


かなめが光の加護を与えたことへの特異性を察して、徹は忌々しそうに表情を歪める。

高位ギルド『カーラ』は、召喚のスキルの使い手に優れていた。

徹のように複数、召喚の契約を交わせる者はいなかったが、それでも多数の召喚のスキルの使い手がいれば、それと同様に行使し、補うことができる。

望達は既に、前方からベヒーモス達、後方から『カーラ』のギルドメンバー達が召喚したモンスター達と挟み撃ちを受けていた。

かなめの魔力が続く限り、『カーラ』のギルドメンバー達が召喚したモンスター達が再生する。

その上、信也の仕掛けたトラップにより、ダンジョンから脱出することが出来ない。


「さあ、特殊スキルの使い手を、こちらに引き渡してもらおうか」


千差万別な武器を構え、『カーラ』のギルドメンバー達はゆっくりと望達に迫った。


「どうすればいいんだ」

「どうすればいいの」


剣を構えた望とリノアは、消化しきれぬ想いを抱いたまま、自問する。

作戦も万策が尽きた。

いや、恐らく、高位ギルドに対しては、どの作戦も有効ではないだろう。

完膚なきまで叩き潰すために攻勢を強めてきた『カーラ』のギルドメンバー達を前にして、望達は迎撃態勢に入る。


「くっ」

「……っ」


望とリノアは後方に跳んで、襲い掛かってきたベヒーモス達の一撃を避ける。

今まで、かなめの光の加護の効果を消し去ったことがあるのは、愛梨の特殊スキル『仮想概念(アポカリウス)』だけだ。

だからこそ、かなめはこの状況下で、光の加護の付与を行ってきたのだろう。


望が愛梨に変わるきっかけを作るためにーー。


「「失いたくない」」


剣を構えた望とリノアは、高らかにつぶやいた。


「「みんなを守りたい……!」」


『カーラ』のギルドメンバー達の猛攻を前に、剣は弾かれ、望とリノアは吹き飛ばされる。

それでも、望とリノアは剣を支えに立ち上がった。

しかし、それは愛梨に変わるためではない。

メルサの森と今では明らかに違う事実がある。


「だから、蒼の剣、俺達に力を貸してくれないか!」

「だから、蒼の剣、私達に力を貸して!」


望とリノアは確かな想いを口にする。

その瞬間、望達の想いに応えるように、蒼の剣からまばゆい光が収束した。


「蒼の剣、頼む……!」

「蒼の剣、お願い……!」


望とリノアが剣を掲げた途端、蒼の剣による、水の魔術の付与効果が発動した。

蒼の剣から溢れ出した、水の魔術の奔流が空間を席巻する。

蒼の剣には、変幻を元に戻す効果がある。

だが、この場には変幻の現象が発生していない。

効果が発動しても意味はなかった。

しかしーー


「ーーなっ!」


突如、立ち上った水流に、『カーラ』のギルドメンバー達の意識は大きく逸らされた。

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