「リノアちゃんの移動を止めないと、望くんが思うように戦えないね」
すかさず跳躍した花音が鞭を振るい、望達に迫っていたモンスター達を吹き飛ばした。
「椎音紘よ。『レギオン』と『カーラ』が敬っている『美羅』の明晰夢の力を止める手段はないのか?」
そう問いかけてきた有をまっすぐに射貫くと、紘は静かな声音で真実を告げる。
「美羅の存在を消滅させるしかない」
「……美羅の力、明晰夢の力、どちらも止めるには美羅の存在を消滅させるしか手立てがないようだな」
紘の宣告に、有は驚きと同時に合点がいく。
「美羅の力は強大だな……」
リノアとリノアの家族が妄執に囚われていた存在。
現実世界が無惨な末路へと至った元凶。
先程まで抱いていた懸念が払拭した勇太は苦々しく舌打ちした。
『私は、明日から美羅様に生まれ変わるの』
『生まれ変わる?』
『うん。だから、明日から、あなたに会うことはない』
勇太の脳裏には胸のつかえが取れたように微笑むリノアの姿。
もうどのくらい会っていないんだろうか。
本来のリノアと交わした会話の数々を勇太は懐かしむ。
『ねえ、勇太くんは何か望みはある? 私の望みは、美羅様になることなの』
賢が求めた理想を体現しようとするあの頃のリノアの姿が、勇太の心の琴線に触れる。
「リノア、おまえの望みは美羅になることじゃないからな」
勇太は遠い記憶に掘り起こしたことで、改めて自分が為すべきことを触発された。
やがて、感情の消えた瞳とともに、紘はあくまでも自分に言い聞かせるように継げる。
「美羅は『レギオン』の者達が産み出した、愛梨と吉乃美羅のデータを合わせ持つ『救世の女神』ともいうべき存在だ。特殊スキルの使い手である蜜風望と愛梨にシンクロさせることによって、実際の人間ーー久遠リノアと同化させられるところまで進化を果たしている。この進化をこれ以上、進めさせるわけにはいかない」
「「さらなる進化……?」」
どうしようもなく不安を煽るそのフレーズに、望とリノアは焦りと焦燥感を抑えることができなかった。
「今の美羅は、人智を超えた成長を遂げる『究極のスキル』そのものであり、時には特殊スキルの使い手である私達の力を超えるほどの絶対的な力を持っているということだ」
「ーーそれって美羅が真なる力を行使したら、俺達、特殊スキルの使い手でも止めることはできないかもしれないのか」
「ーーそれって美羅が真なる力を行使したら、私達、特殊スキルの使い手でも止めることはできないかもしれないの」
その紘の言葉を聞いた瞬間、望とリノアは息を呑んだ。
世界は混迷を極めている。
仮想世界でしか存在していなかった美羅は現実世界という表舞台に姿を現し、ついには救世の女神にまでなっていた。
一歩間違えば、世界が破綻していてもおかしくない。
そんな情勢の中でも、望達は前を向こうとしていた。
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