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留菜マナ
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第百八十一話 蝶のクレードル①

公開日時: 2021年3月18日(木) 16:30
文字数:1,445

「ここは通さないわよ!」

「なっ!?」

「また、精霊が邪魔してきたわ!」


ララは浮遊したまま、『カーラ』のギルドメンバー達の行く手を塞いだ。


「邪魔をするな!」


その時、様々な武器による『カーラ』のギルドメンバー達の猛攻が襲いかかる。


「そんな攻撃、意味ないわよ」


だが、それが放たれるよりも先に、ララは電光石火の早業で光の檻を生成させた。

彼らの逃げ道を塞ぐように、四方形の光の壁が具現化する。


「何だ?」

「なにこれ! 出られない!」

「これで、あなた達はここから逃げられないわよ」


『カーラ』のギルドメンバー達の叫びをよそに、ララは得意げに腰に手を当てた。

ララは飛来して、徹の前で無邪気に笑う。


「徹。あたし、頑張ったよ。誉めて誉めてー」

「ララ、ありがとうな」

「えへへ……」


徹の称賛に、ララは嬉しそうに赤らんだ頬にそっと指先を寄せる。

そして、徹が動くのを見計らっていたように、イリスもまた、次々と『カーラ』のギルドメンバー達の攻撃を振り払う。


「よし、望、奏良、プラネット、勇太、そして妹よ、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達と協力しながら、リノアを連れてこの地を離れるぞ!」

「ああ」

「うん!」


有の号令の下、望達は湖畔の街、マスカットを目指して疾駆する。

だが、それでも追いかけてくる『カーラ』のギルドメンバー達の数は一向に減らない。


「喰らえ!」


戦局全体を見極めていた奏良は、銃を構えると範囲射撃をおこなう。


「ーーっ」


不意を突いた連続射撃は、追撃に出ようとした『カーラ』のギルドメンバー達を怯ませる。

しかし、一部の者達はそれを避けると、奏良にそれぞれの武器を振りかざしてきた。


「なら、これでどうだ! 『エアリアル・ライカ!』」


奏良は、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』で覚えたスキルを披露する。

奏良が放った無数の風の渦が、高速光線となって、縦横無尽に軌跡を描く。

予測できないランダム軌道の疾風に、『カーラ』のギルドメンバー達は虚を突かれた。


「よし、今のうちに行くぞ!」


それは絶好の好機だった。

有達は、混乱する『カーラ』のギルドメンバー達の只中を駆け抜ける。


「プラネットちゃん、行くよ!」

「はい」


花音とプラネットは並走して、苛烈な連携攻撃を『カーラ』のギルドメンバー達に加えていった。


「おのれ!」

「慌てる必要はない」


凛とした声が、混乱の極致に陥っていた『カーラ』のギルドメンバー達を制する。


「賢様」

「既に、転送アイテムなどを使用不可能にする魔術を練り上げている。その効果が解除されるまでは、彼らは思い通りに動けないはずだ。このまま予定どおりに事を進めていけばいい」


『アルティメット・ハーヴェスト』の者達と対峙していた賢のつぶやきが、不気味に木霊した。


「蜜風望達は、美羅様と同化した久遠リノアをこのままにはしておけないだろう。たとえ、病院で精密検査を受けたとしても、元には戻らないからな。必ず、『創世のアクリア』のプロトタイプ版の世界で、彼女を元に戻す方法を探すはずだ」


長い沈黙を挟んだ後で、賢は淡々と告げる。


「美羅様はしばらくの間、蜜風望達に預けておこう。蜜風望達の側にいれば、私達の求めている美羅様の真なる力の発動はいずれ実現するからな。そうなれば、『レギオン』と『カーラ』は世界を救った救世主だとして称えられ、全ての事柄は美羅様のーー私達の思いのままになる」

「はっ。心得ています」


賢は、美羅の腹心。

彼の行動は、美羅の意向に基づいている。

嗜虐的な賢の指示に、『カーラ』のギルドメンバー達は丁重に一礼したのだった。

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