「これって、一体……」
リノアの件で思い悩んでいた勇太は、予想外の騒動を目の当たりにしたことで唖然としてしまう。
すると、花音は悪戯っぽく目を細める。
「あのね、勇太くん。心配しなくても、大丈夫だよ。奏良くんと徹くん、愛梨ちゃんのためなら頑張るから、その気にさせているんだと思う」
「そ、そうなのか……」
探りを入れるような花音の言葉に、勇太は窮地に立たされた気分で息を詰めた。
「奏良、徹よ、そういうことだ。今後のダンジョン調査での主戦力は、おまえ達に任せる。もしかしたら、望を通して、愛梨におまえ達の活躍が伝わるかもしれないからな」
「分かった。愛梨のために、僕は『レギオン』と『カーラ』の襲撃に備えよう」
「なっ! 愛梨は、俺が守るからな!」
有に上手く丸め込まれている奏良と徹を見て、望は申し訳ない気持ちになる。
激しい剣幕で言い争う二人を背景に、望達の話し合いは着々と進められていった。
望達はインターフェースで表示した湖畔の街、マスカットのマップを見つめながら、これからの方針を模索する。
「今後のダンジョン調査はどうするのか、悩みどころだな」
「今後のダンジョン調査はどうするのか、悩みどころね」
先程の予想外な出来事を目の当たりにして、望とリノアは複雑な心境を抱いた。
「『創世のアクリア』のプロトタイプ版。僕達も含めて、三大高位ギルドは、いつでもログインすることができる状態だ。少なくとも、一万人以上は、この世界を行き来していることになる」
「ああ」
奏良の危惧に、有は深々とため息を吐いた。
ログインできる者は限られているとはいえ、一万人以上のプレイヤーが、この仮想世界を行き来している。
そして、その半数近くが、特殊スキルの使い手である望と愛梨を狙っているという事実。
有は、次の手を決めかねていた。
それは、開発者達という特異性だけではなく、彼らの手腕も侮ることはできないと感じていたからだ。
そこで、両手を伸ばした花音は、興味津々な様子で有に尋ねる。
「お兄ちゃん。アイテム生成で、『氷の結晶』と『飛行アイテム』をかけ合わせれば、海や川の中に入ることができるアイテムが出来るの?」
「その通りだ、妹よ。『シャングリ・ラの鍾乳洞』しか達成することが出来なかったため、一つしか作成することが出来ないがな。しかし、それでも一度だけなら、この場にいるメンバー全員が海や川の中に入ることができるはずだ」
有の想定外の発言に、望とリノアは意外そうに首を傾げた。
水中に入ることが出来るアイテムは、一つ使うだけで、その場にいるプレイヤー達全員に効果を発揮する。
「一度だけか。『サンクチュアリの天空牢』のクエストを達成するまでは、海の中のダンジョンには行かない方がいいな」
「一度だけ。『サンクチュアリの天空牢』のクエストを達成するまでは、海の中のダンジョンには行かない方がいいね」
「ああ、その通りだ。だが、『氷の結晶』が複数手に入る『サンクチュアリの天空牢』には、事前調査が終わるまでは行くことはできないな」
有のその言葉を皮切りに、花音は表情に期待を綻ばせた。
「なら、お兄ちゃん。海の中に慣れるために、空いた時間を使って湖の中に入ってみてもいいかな?」
「なるほど、妹よ、一理あるな」
有は顎に手を当てると、花音の発想に着目する。
「よし、妹よ。早速、アイテム生成を行うぞ!」
「うん! 湖の中って、どんな感じなのかな!」
有の決意に応えるように、花音は潜水への意気込みを語った。
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