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留菜マナ
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第六十四話 生まれてきてくれてありがとう③

公開日時: 2020年12月3日(木) 16:30
文字数:1,558

「そもそも、君は何をしに来たんだ?」

「おっ、そうだった」


呆れたような奏良の指摘に、徹は切り替えるように仕切り直して続けた。


「西村有、そして、『キャスケット』のみんなに、紘から伝言があるんだ」

「伝言?」


有は不思議そうに、徹の真偽を確かめる。


「蜜風望を、これからも『創世のアクリア』にログインさせてほしいんだ。『魂分配(ソウル・シェア)』、蜜風望の特殊スキルの力を持続させるために」

「……望の特殊スキルの力を持続させる?」


淀みなく発せられたその言葉に、有は怪訝そうに眉をひそめた。


「愛梨がこれからも生きていられるためには、蜜風望の特殊スキルがどうしても必要なんだ」

「……それは、マスターが度々、ゲームにログインされていないと、愛梨様に使われている特殊スキルの効果は持続されないということでしょうか?」


徹の必死の呼びかけに、プラネットは戸惑うように疑問を呈する。


「えっー! 愛梨ちゃんがいなくなるなんて、そんなの嫌だよ!」

「ああ。俺達も嫌なんだ」


涙を潤ませた花音の悲鳴に、徹は考え込む素振りをしてから、改めて愛梨を見据える。


「だから、頼む。このまま、愛梨が生き返っていられるようにしてほしいんだ!」

「分かった」


徹の懇願に、有は納得したように頷いてみせた。


「鶫原徹よ。愛梨は、俺達にとっても大切な仲間だ。死なせるわけにはいかないからな」

「うん、愛梨ちゃんは絶対に死なせないよ! 愛梨ちゃんは、私達の大切な仲間だもの!」


有の言葉に同意するように、花音は眦(まなじり)を吊り上げて強く強く肯定する。


「愛梨を守ることが僕の役目だ」

「マスターと愛梨様は、私達が必ず、お護り致します」


強い言葉で言い募った花音に追随するように、奏良とプラネットは毅然と言い切った。


「愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」

「……うん」


両手を握りしめて言い募る花音に熱い心意気を感じて、愛梨は花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべる。


「ありがとうな」


メルサの森の跡地を背景に、徹は安堵の表情を浮かべた。


「これから、上位ギルド『キャスケット』の監視と警護に当たる。『レギオン』側に何か動きがあったみたいだから、警戒を怠らないようにな」

「承知致しました」


徹の指示に、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達は丁重に一礼する。

そんな中、周囲の様子を窺っていたプラネットは、真剣な眼差しで有を見つめた。


「有様。今回、敵対してきた『レギオン』と『カーラ』以外にも、特殊スキルの使い手を狙うギルドは多いと判断します」

「ああ」


プラネットの懸念に、有はインターフェースを使って、高位ギルドの情報を検索する。


新興に当たる高位ギルドであり、『レギオン』の傘下のギルドである『カーラ』。

そして、特殊スキルの使い手達を手に入れて、愛梨のデータの集合体である『美羅』の真なる覚醒を狙う高位ギルド、『レギオン』。

『アルティメット・ハーヴェスト』の監視と協力があるとはいえ、全てを判断し、対処していくのは困難極まりないだろう。


有は今回、表立って、望達を狙ってきた二大高位ギルドの情報を改めて吟味した。


「有。これからは、少し戦略を変えていく必要がありそうだ」


奏良は腕を組んで考え込む仕草をすると、高位ギルドの情報を物言いたげな瞳で見つめる。


「奏良よ、その通りだ。しかし、どんな対策を練るか、悩みどころだな」

「……あの、有様」


思案に暮れていた有を現実に引き戻したのは、躊躇いがちにかけられたプラネットの声だった。


「これからも、電磁波の発信源を特定できるように頑張ります。次回のクエストにも、ご同行させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ、プラネットよ」

「ありがとうございます」


有の承諾に、プラネットは一礼すると強気に微笑んでみせる。

一悶着ありながらも、有達は決意を新たにするのだった。

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