兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第百十九話 もうすぐ魔法がとけるから④

公開日時: 2021年1月15日(金) 16:30
文字数:1,309

望達、『キャスケット』。

賢達、『レギオン』。

徹達、『アルティメット・ハーヴェスト』。


『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』のボス戦ーー。

三大ギルドの猛攻により、混戦状態になりながらも、モンスター達の数は徐々に減っていった。


「望くん、リノアちゃん、お願い!」

「ああ!」

「うん!」


先手を打った花音の合図に、跳躍した望とリノアが剣を振るい、モンスター達を木端微塵に打ち砕いた。

だが、さらに五体の影が、空中から襲いかかってくるのが見える。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、飛行モンスター達は次々と落ちていく。


「逃がしません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を落ちてきたモンスター達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、モンスター達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。

そして、クエスト終了の時間まであと一分を切った時、最上階に溢れ返っていたモンスター達はようやく全て消滅した。


「わーい! 望くん、お兄ちゃん、奏良くん、プラネットちゃん、勇太くん、リノアちゃん、大勝利!」

「……っ。おい、花音」

「……っ。花音」


これ以上ない満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってきた花音が望に抱きついた。

花音の突飛な行動に、望は身動きが取れず、窮地に立たされた気分で息を詰めている。

リノアもまた、戸惑ったように同じ動作を繰り返す。


「奏良、プラネットよ、やったな」

「ああ。途中で、『アルティメット・ハーヴェスト』が参戦してくれたおかげだ」

「マスターの力はすごいです」


有のねぎらいの言葉に、奏良とプラネットは恐れ入ったように答えた。

難攻不落だと思われたボスモンスター達を倒してしまった凄まじい力ーー特殊スキルの力と二大高位ギルドの片鱗を垣間見たような感覚。

奏良とプラネットは、特殊スキルと二大高位ギルドの力を改めて実感する。


『このクエストは終了しました。クエスト達成、おめでとうございます』


勝利を喜び合っていた望達の前に、クエスト終了のメッセージが表示された。

その瞬間、最上階のフロア全域に、うっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には、視界が切り替わり、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の入口の前にいた。

外敵を拒むように塔の前で待ち構えていた、無骨なガーゴイル達はもういない。

やがて、目の前にある塔が、役目を終えたとばかりに徐々に消えていく。


「……クエスト、終了したんだね」


花音が複雑な心境で、消えゆく塔を見上げる。

間一髪のところでクエストを達成したという現実を見据えながら、望達は塔が消えていくのを見届けることしかできなかった。


「そろそろか……」

「「ーーっ」」


その時、曖昧だった思考に与えられる具体的な形。

振り返った望達は、賢が意味深な笑みを浮かべているのを見て思わず、身構える。

だが、賢は、剣呑な眼差しを向けてくる望達など眼中にないように、リノアの両親だけを見ていた。

柔和な表情。

だが、瞳の奥には確かな陰りがある。


「……賢様」

「……っ」


賢のその反応を見て、リノアの両親の背筋に冷たいものが走った。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート