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留菜マナ
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第ニ百九話 星が溶けた世界で⑤

公開日時: 2021年4月14日(水) 16:30
文字数:1,398

「貫け、『エアリアル・アロー!』」


奏良が唱えると、無数の風の矢が襲いかかり、ベヒーモス達の行く手を足止めした。


「任せろ!」


そのタイミングで、勇太は身体を回転させ、遠心力に乗せて大剣を振る。

そして、疾駆の速さで、前方のベヒーモスを何度も肉薄した。


『クロス・レガシィア!』


勇太の剣戟が放たれると同時に、花音は協力技とばかりに天賦のスキルで間隙を穿つ。

隙を突いた花音のスキルに、ターゲットとなったベヒーモスは完全に虚を突かれた。

花音の鞭によって、宙に舞ったベヒーモスは凄まじい勢いで地面へと叩き付けられる。

しかし、起き上がったベヒーモスは応戦するように、レーザーの如き炎を放つ。


「わっ! 今度は、炎の閃光だよ!」


花音は慌てて鞭を戻すと、ベヒーモスから大きく距離を取った。


『グウウウウッ』


ベヒーモスは、自身に炎と風の魔力が混在した光を纏わせる。


『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


ベヒーモスは吠えると、炎と風で荒れ狂った拳を、望達に向かって振り下ろした。


「うわっ!」

「いたっ!」

「くっーー」

「……っ」

「ーーっ」


ベヒーモスの振り下ろした拳に、望達は一斉に巻き込まれる。

迎撃が間に合わなかった望達は、それぞれの武器で対応し、どうにか死ぬことはなかったが、拳の勢いだけは殺しようもない。

HPを半分以上減らされた望達は大きく吹き飛ばされて、地面を転がった。

烈火のごとき剣幕を前に、望は咄嗟に焦ったように言う。


「有、このままじゃ埒が明かない」

「ああ、分かっている。とりあえず、みんな、一度、回復アイテムを使ってHPを回復させるぞ!」


有は腕を組んで考え込む仕草をすると、唸り声を上げるベヒーモスの様子を物言いたげな瞳で見つめた。


「妹よ。これで少し楽になるはずだ」

「うん。お兄ちゃん、ありがとう」


花音達は受け取った回復アイテムを手に戦線を離れると、そこで一息つき、回復アイテムを口に含む。

花音達は、HPを少しずつ回復させていく。

その間、望とリノア、そして勇太が波状攻撃を仕掛け、ベヒーモス達の注意を引いていた。


「望くん、リノアちゃん、勇太くん、お待たせ!」

「マスター、リノア様、勇太様、お待たせしてしまって申し訳ありません」

「状況が状況だからな。愛梨のために、全力を尽くさせてもらおう」


望とリノアと勇太の代わりに、花音とプラネットが前衛に立ち、後方で奏良が風の魔術を放つ。


「望、リノア、勇太よ、回復アイテムだ」

「ああ。有、ありがとうな」

「うん。有、ありがとう」

「ありがとうな」


有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、望達のHPは少し回復した。

望達が前線に戻ると、ベヒーモスは瓦礫を薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしていた。

互いの死力を尽くした超速の攻防。

陸と空、縦横無尽に攻撃の軌跡を描きながら戦う望達とベヒーモス達。

ありとあらゆる手を、持てる限りの様々な技を尽くす。

それでも、ベヒーモス達の攻勢は留まらなかった。


「ベヒーモス達を掻い潜り、先に進むのは困難みたいだ」


戦いの激化を予感させる戦局の中、牢獄への突破口を模索していた徹は、その難解さに目を瞠る。


「何とかして倒し切る必要があるな」

「そうなんだね……」


花音は名残惜しそうな表情を浮かべると、望達が対峙しているベヒーモス達を見つめた。


「はあっ!」


高く跳躍した勇太の大剣が、ベヒーモスに突き刺さる。

HPを示すゲージは少し減ったものの、いまだに青色のままだ。

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