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留菜マナ
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第ニ百十七話 心燿のロンド⑤

公開日時: 2021年4月22日(木) 16:30
文字数:1,772

「誰もいないな」

「誰もいないね」


先行していた望とリノアが警戒するように、周囲の様子を窺う。

牢獄を抜けた先は、石造りの殺風景なフロアになっており、モンスターや『カーラ』のギルドメンバー達の姿は見受けられない。


「今は『カーラ』のギルドメンバー達はいないようだな。よし、妹よ。ここで一旦、作戦を立てるぞ!」

「うん」


有の指示に、花音は満面の笑顔で頷いた。


「ここは、モンスターが出てこないエリアみたいだな」

「ここは、モンスターが出てこないエリアみたいね」

「ああ」


周囲を窺っていた望とリノアは意外そうに、奏良に水を向ける。

フロアにはモンスターが出ないため、望達の警戒心も薄かった。


「この先は、螺旋階段を上がる必要があるのか。また、トラップが仕掛けられている可能性が高いな」

「そうだな」

「そうだね」


奏良の思慮に、望とリノアは自分と周囲に活を入れるように答える。


「まずは、アイテム生成をする必要があるな」


有はアイテム生成を使い、新たなアイテムを産み出していった。

敵を撹乱させるための氷属性の飛礫アイテム。

トラップ解除用の魔弾アイテム。

『氷の結晶』と複数のアイテムを用いて、次々とアイテムを作成していく。

その様子を眺めていた花音が、興味津々な様子で尋ねた。


「その、氷属性の飛礫アイテム。『カーラ』の人達を牽制することに使えないかな?」

「恐らく、使えるだろうな」

「わーい! 風の魔術による付与もあるから、すごい連携攻撃が出来そうだよ!」


曖昧に言葉を並べる奏良をよそに、花音はぱあっと顔を輝かせる。


「ロビーでの戦闘は、向こうが有利な状況にあるな」

「なら、敵を引き付ける役と、トラップを解除する役にそれぞれ分担した方がいいよな」

「そうだな」

「そうだね」


徹と勇太の言い分に、望とリノアは少し逡巡してから応える。

『カーラ』が待ち構えているロビー攻略戦は難航する気配を見せていた。


「どうやって対処するかな」

「どうやって対処しようか」


望とリノアが思い悩んでいると、腕を組んだ有はとんでもないことを口にした。


「よし、ならば、俺は敵を引き付ける囮役をやるぞ!」

「お兄ちゃん、私も囮役するー!」

「囮役って……、有は『アイテム生成』のスキルが使えるからトラップ解除役の方がいいんじゃないのか……!?」

「囮役って……、有は『アイテム生成』のスキルが使えるからトラップ解除役の方がいいんじゃないの……!?」


有と花音の突拍子のない作戦を聞いて、望とリノアは呆気に取られてしまう。

その指摘に、プラネットは水を得た魚のように前に出て提唱した。


「有様。敵を引き付ける役は、私達にお任せ下さい。囮役の大役、私達が務めてみせます」

「……うむ、仕方ない。プラネットよ、頼む」

「はい」


プラネットの決意に満ちた真剣な眼差しを見て、有は折れた。


「ここまでは、予定どおりだ。このまま、紘の指示どおりに動くしかないな」

「徹様、電磁波の発信源の特定、お任せ下さい」


徹の方針に、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げる。

プラネットは感覚を研ぎ澄まし、『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探っていた。

電磁波の発信源を特定することで、かなめ達以外ーーニコット達による妨害がないのか、探ろうと考えたのだ。


「だけど、どうやって、敵を引き付けたらいいんだろうな?」

「だけど、どうやって、敵を引き付けたらいいのかな?」

「氷属性の飛礫アイテム以外にも使える撹乱方法がある」


望とリノアの疑問を受けて、徹は花音と勇太に目配せした。

勇太は即座にインターフェースを使い、ステータスを表示させると、先程覚えたばかりの新たなスキル技を確認する。


「妹よ、どういうことだ?」

「あのね、お兄ちゃん。『クロス・バースト』を使えば、封印の効果で特性そのものを使えなくなるんだよ!」


有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。


「花音の天賦のスキル『クロス・バースト』を使えば、『カーラ』が呼び出したモンスター達は封印の効果で、特性そのものを使えなくなる」

「そういえば、鞭の天賦のスキルは、ステータス異常を発生させる技が多かったな」


奏良が事実を如実に語ると、勇太は納得したように首肯する。


「そういう君も、新しいスキルを覚えたんじゃないのか?」

「ああ。突破口を開くきっかけになるのかは分からないけどな」


奏良の指摘に、勇太は切り替えるように表情を引き締めた。

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